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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【If Another despair】 ジャンク

【20XX年 封鎖特区 鎌倉】


「それ」が自らを認識したのはいつだったのだろうか。
群体としての生から切り離され、数時間、数日、それとも数カ月――「それ」に人間の言う時間の概念は存在しない。
生存本能に従い、冬眠状態のまま目覚めを待つ。
他の生物の接触を期待して、ひたすらに耐え続ける。
生存の欲求と、「母体」に戻りたいという帰巣本能を抱えて。


鎌倉は今日も、銀色の雨が降っていた。


――――


かつての記憶を甦らせて頂きたい。
ゴーストが徘徊する建造物から、学生達は何を得ていたか。
残留思念は何を生んでいたか。


そう、詠唱兵器であり、詠唱銀である。
能力者達が扱えるようカスタマイズされ、武器となり、防具となり、はたまた道具となり――不必要であれば鋳潰され、銀となる。
詠唱銀はより多くの力を得る為の糧となる。

より多くの銀が降り注ぎ、より多くの力を手にした現在においても、その流れは変わっていない。
戦場の瓦礫をひっくり返し、死体を漁り、場合によってはゴーストを駆逐して、詠唱兵器を、詠唱銀を手に入れる。
それを生業にする者は「ジャンク屋」「廃品屋」、もしくは蔑みを込めて「腐肉漁り」と呼ばれる。


「……こっちは刀。コイツは詠唱銃。この全身鎧はまだ使えるな」

彼もその一人。何の変哲も無い、ジャンク屋。
数刻前に教団とレジスタンスの小競り合いがあったこの場所で、いつも通りの仕事をしている。
死体の装備を剥ぎ取る事に良心の呵責を感じる事は最早無い。
資源は有効利用すべき、というのが彼の主張であり、ジャンク屋一般の主張するところである。

「対能力者用シールド、完品。ついてるな」

誰に聞かせる訳でもなく、呟き続ける。
転がった死体のチェックを終え、回収した装備品をザックに詰め込んで、起動。
火球で死体を焼き尽くし、そこに詠唱銀を振り撒く。
固定された思念が、詠唱兵器へと変わる。これも回収。
更に瓦礫を彼の持つ得物――巨大なスコップで大きく掘り抜く。
瓦礫に埋まっていた幾つかの装飾品が顔を出す。

「ま、こんなもんか……おお?」

掘り出した装飾品を回収したところで、足元に転がる蟲籠が目を引いた。
実にシンプルな、鳥籠に似た形状の黒い籠。
詠唱兵器の素材として、十分強化に耐えうる品質だ。
儲け物とばかりに手を伸ばそうとして――何故目を引いたのか、その理由に気付く。

ちかり、ちかり。

弱々しい光が、蟲籠から漏れていた。




――――

「それ」は、他の生物を感知した。
かつての母体と同じ、人間。
「それ」は刻まれた本能に従い、人間へと取り付く。

――――




「うおおおおおッ!?【蟲付き】かッ!」

大きく蟲籠を放り投げるジャンク屋。
蟲籠は放物線を描き、瓦礫の隙間へと転がっていく――が、既に遅い。


激痛。
爪の間から潜り込む、白い蟲。
手首を押さえながら呻き声をあげ、倒れ込む。

更に激痛。
血管を這い進む、白い蟲。
アビリティを自らに起動。侵入された右手を焼くが、更に蟲は内部へと入り込んでゆく。

痛みは極限に達し、やがて消えた。
蟲が共生を開始し、宿主の痛覚を遮断すると同時に組織の修復を促し始めたからだ。
新しい皮膚が、黒焦げの皮膚から見え隠れする。

(ついてる日かと思ったが、まさかこんなもんが憑いてるとは)

男は綺麗に治った右手を見ながら自嘲気味に笑っていた。
蟲憑きになったのは一度や二度ではない。ジャンク屋稼業では良くあることだ。
学園の実例より、二つの能力まで扱える事が既に判明している。
一時的に蟲を受け入れても、後で取り出せば済む話だ。幸い、そういった処置をしてくれる知り合いには事欠かない。
カマクラヤマクリニックにでも行って、蟲下しを貰うか。
そう考えつつ、ゆっくりと立ち上がる。回収した装備品をもう一度背負い直し、ふと右手をもう一度見る。

淡く輝いている。
その輝きは少しずつ胴体へと広がっていく。
おかしい。今までの蟲憑きの経験と違う。

痛みは感じない。痛覚は遮断されている。
むずむずとした感触と共に快感の波が激しく脳を揺さぶった。
おかしい。今までの蟲憑きでは、こんな快感は得られなかった。
精々、風呂に浸かる程度の温いものだったはずだ。

それに、この這い回る音はなんだ。
身体中から聞こえてくるじゃないか。



きち
きち

ぐちゃ
ばり
べき



ああ、なるほど。
俺はこいつらの 餌 なのか



思考を吹き飛ばすような感覚の爆発。
痛覚と快楽が寄せては返す波のように激しく打ち寄せ、涎を垂らしながら痙攣し――やがて、男は動かなくなった。


――――

「それ」は複製を繰り返しながら考えた。
この生物は不適合だ。かつての母体に大きく劣る。
「それ」……増殖した今は「それら」は、更に考えた。
母体に劣っているのなら、作り変えれば良い。
かつての情報を元に、再構成すれば良い。
それは「それら」にとって実に棲み良い宿主となるだろう。
その為には多くの資源が必要だ。

より多くの人間が、必要だ。

――――


男だったものが、再び立ち上がる。
全身に燐光を輝かせ、輪郭をぼやけさせながら。
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