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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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#26
【IF Another despair】 交接の残骸

 雨の降るオオマチ・エリア。
【嵐公女】が二人。
一人は、地に仰向けに倒れ、火傷とも裂傷ともつかぬ傷を一身に帯び、鼻につく黒い煙を上げている。
一人は、丘・敬次郎の肩に担がれ、胸から腹にかけて大きく割り裂かれた傷口から、臓腑と血液をはみ出させている。
 
「どうも♪」
「おひさしぶり、です。」
 
【祈らず】に向かって丘が手を振ると、彼も苦笑で返した。
 
「一体、どういうことなのでしょう?」
「それは僕が聞きたいのです。」
 
【祈らず】の困惑の声に、丘も呆れた声を返すしかない。
【祈らず】の周りには、彼を慕う子供たちが激戦の傷跡を労わりあっていた。
 
「ともあれ、二体いた。
ということは、三体四体いても、不思議ではないということですね。」
「……そうですね。」
 
事態は、何も好転してはいない。
【嵐公女】がかき集めた黒雲は徐々に散りつつあったが、彼らを包む運命の曇天は全く晴れる様子がない。
 
「……えーと、【幽霊せせり】を名乗る男がここに来ませんでしたか?
眼鏡をかけた色男。」
「ああ、その人なら、今は海の方に。
風を浴びたいとか。」
「死にたいのでしょうか?」
 
この状況で単独行動とは。
しかし、彼の顔かたちや立ち居振る舞いには、確かに海のような、遙かな風景が似合ってもいる。
ある意味で、外してはいない行動だ。
 
「……やっぱり。まずいですね。」
「何がです?」
「『おんなじ』だ。」
 
ほら、と丘が二人の【嵐公女】――――の死体――――を指差した。
 
「他人の空似とか、双子とか、そういうレベルじゃない。
骨格、筋肉、神経節、血管。何もかも『同じ』だ。
同じ種(タネ)から生まれ、同じ育ち方をしないと、ここまでは似ない。」
「……そうなんですか。」
 
今や二つの肉体は原型を留めているとは言いがたいほどに損壊している。
素人目には別人だといわれれば納得してもおかしくない二体であるが、
人体を幾十幾百丹念に――――それも好き好んで――――解剖し、
中身を見続けてきた丘にとっては、二つの死体は『瓜二つ』にしか見えなかった。
 
「そうなんです。
わかりますよね、これ、どういうことか。」
「……ええ。」
 
原理はどうあれ、【嵐公女】は複数体存在している。
それが全て、【祈らず】の撃破という一つの目的に向かって行動している。
【祈らず】自身は、「はじくん」に全く心当たりがないにも関わらず。
 
これは、恐らく単なる尖兵だ。
でなければ、こんな不安定かつ大規模に影響を及ぼすものが何人もカマクラに点在し、
あまつさえ今の今までトラブルを起こさなかった、などということはありえない。
誰かの指示で、降って湧かされた。
誰の?
決まっている。
カマクラの『王様』の命令に、決まっている。
 
「困ったなあ。
大変困りました。
僕は遊びに来ている訳ではないんですが、こうも割り込みでタスクが入ると、さすがにイライラきてしまいますね。」
「わたくしのことは、かまわないでいてくれてよろしいんですよ?
ご迷惑になるくらいなら……。」
「残念ながら、そういう訳にはいかないのです。
一人で走りまわるには、こいつらのデータが少なすぎる。
機動性を尊んで一人で飛び出したところに落とし穴を掘られていたら、一巻の終わりです。
今は掘られた穴の位置と大きさがわからないと動けない、つーか動きたくない。
その為には、出来るだけ戦力を集中させて、おっかなびっくり進むのが一番です。」
「わかりました。」
 
あなたがたは僕の盾だ、という丘の言葉に【祈らず】は快く返事をした。
お互い様だからだ。
自分の身が彼の助けになるのなら、当然それを捧げる。
それで自分たちの生存確率も上がるというなら、迷いなどありもしない。
【祈らず】はその名の通り救いを祈ることなく、命を懸命に使うと判断した。
 
「さあ、どうしましょうかね。
相手が『王様』ならとっくにこの場所は割れているはずで。
じっと止まって消耗戦をさせられるのもバカらしいですが、
かと言って逃げ延びる宛ても……。」
 
そう言って丘は、左手で懐から携帯電話を取り出しパクリと開けた。
もしもし、僕です、今オオマチでして……。
 
「誰に電話を」
しているのですか。
 
【祈らず】の言葉はそこで途切れた。
【幽霊せせり】が、神妙な顔で現れたからだ。
まずい船が来た、と一言発して。
 
それを聞いて丘は、予定通り、北から穴を空けてくださいと通話口に告げると、電話を切った。
【嵐公女】を投げ捨てて現れた右手は、肘から先が銀色に染まっていた。
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