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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】獣の戯れは草食獣には…

【20XX年 封鎖特区 鎌倉】

始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。

―教団本部
建物が、大きく揺れた。

本日何回目かのその振動に驚く者は一人もいない。
何人かの警護の兵士はまたかといった風に、天井から落ちてきた埃に目を細める。


「………」
"嵐公女"の再起動、そして件のカフェ襲撃についての報告を終えた"銅"は、薄暗いホールに辿り着いた辺りで口にたまった血を吐き捨てた。
まだ鉄のような血の味が口の中に残っている。

綺麗な水が欲しい、体も洗いたいと思ったが、すぐにその思考は中断された。
柱の一つに何者かの気配を感じる。
「無様だなぁ、"銅"?」
「…。"道化師"」
教団の保有する能力者部隊『黙示録の獣(リヴァイアサン)』。彼女らの仲はお世辞にも良いとはいえない。
「………」
無言で通り過ぎる"銅"に、"道化師"はニタニタ笑いながら影のように後を歩く。

「あはは…! その様子だと、大分絞られたみたいね。いい気味だわ」
「うるさい…」
「しかし…あの"宗主"が、失敗をおかした手駒を生かしておくとは珍しい。
あんた、どんな裏技を使ったのよ?」
「………」
黙り込む"銅"。ねばっこい笑みを浮かべ後をつける"道化師"。
立ち止まる"銅"。立ち止まる"道化師"。
「………」
早くうせろと"銅"が振り向き、無言の圧力をかける。
"道化師"はひゅぅと口笛をふいて肩をすくめた後、
微かな空気の流れに乗ってきた相手の匂いを、敏感に嗅ぎ取った。

「…んん? …! そう、そういう事…」
一瞬眉をしかめた後、その匂いに正体に気がついた"道化師"は。
「そういう事…なるほど。なるほど…ふっ…くく…ははは…。
あはははははあははははああっははははは!!!!」
狂ったように笑い出した。
「………」
「はははははは!! ははっ…ははは、なるほどね!
傑作だわ! あんた…"宗主"の…はははははははは!!!」
"銅"が稲妻のごとき速度で踏み出す。建物が、大きく揺れた。

本日何回目かのその振動に驚く者は一人もいない。
何人かの警護の兵士はまたかといった風に、天井から落ちてきた埃に目を細める。


「この兵器は敵に向けるものじゃないのかしら?」
"銅"の手首を掴んで鉤爪を静止させた"道化師"が笑う。
「誰が『味方』ですって?」
もう片方の手からも爪を繰り出す"銅"。
"道化師"のリボルバーガントレットとの交差を皮切りに、互いに火花が散る程の速度で詠唱兵器をぶつけ合う。
「"銅"…。二つ名を、"娼婦"にでも変えたらどう?」
「"道化師"のくせに面白くない冗談ですね」
衝撃波が吹き荒れるなか一足一撃の間合いを保ちつつ、2匹の獣が牙を向き合う。

激突音に見回りの兵士たちが気がついたが、誰もその2人に近づこうとはしなかった。
ささやき声で、まだ若い教団の兵が熟練していそうな兵士に尋ねる。
「せ、先輩、あの二人…!!」
「"銅"と"道化師"だ。放っておけ、どうせ止められん」
「"宗主"様に報告は…」
「いちいち俺達が、
『黙示録の獣(リヴァイアサン)』同士が遊んでいるのを報告をするのか?」
「え…?」
意外な言葉だったのか、若い兵士が首をかしげる。
「お前…虎が遊んでいるところを見た事があるか?」
「は…?」
「虎だ、虎。いや他の肉食獣でもいいんだが」
「あまり記憶はありませんが…。はい、あります」
熟練した兵士はその言葉を聞くと、なら話が早いと改めて『獣』たちの方を見ながら口を開く。

「ならそれと一緒だ」
「…?」
「あいつらの遊びは、俺達には殺し合いと同じように見える、逆も然り。
それだけだ」
「………」
「そういう事です。まあ、あの状態の二人には関らない方がいいですよ」
「「っ!!?」」
突然響く第三者の声。兵士二人は驚いて振り向くと、そこにはコートを肩にかけた長身の男が佇んでいた。
「ぁ…う…」
若い兵士の方が口をぱくぱくさせて何かを喋ろうともがく、がそれは適わない。
パニック状態になった草食獣のように、何も出来ないのだ。
「持ち場に戻りなさい。彼女たちは、私が」

それだけ言うと、男はコツコツと歩を進め2匹の獣に近づいていった。

「「っ!!?」」
"銅"と"道化師"は男の気配に同時に気がついて横を向く。
柱の影に隠され、男の詳細な人相はわからない。が、放つ気配が、男は獣2匹と『同種』のものだという事を如実に語っていた。
「遊びはそこまでです。さあ、『我々の』仕事をはじめましょう」
「何だお前は…」
露骨に眉をひそめる"道化師"。
"銅"は既に彼のことを知っているのか、衣服を正して鉤爪をしまった。

「随分と遅い出勤なのですね?」
「まあ色々と…。でも寝ていたわけではありませんよ?」
「おい、だから何なんだお前は」
何だか蚊帳の外に追いやられた"道化師"が食い下がる。
男は懐かしい相手と対面したように微笑むと、軽く頭を垂れた。
「お久しぶりです、比留間様」
「…なに?」
かつての"比留間・イド"の知り合いか。そう思った"道化師"は、そちらの領域の記憶を掘り起こす。
男の正体が誰なのか、すぐに符号は一致した。
目を見開いて驚く"道化師"に、眼前の男はただ静かに微笑むのみ。


「アーバイン…。生きていたのか」
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