あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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「さてと。」
鎌倉山クリニックの出口。
ツーテールの男が携帯電話をポケットにしまうとベルトのバックルを回し、鎌倉山山頂へと歩き出した。
――――
「困っちゃいますよ、全く。」
「困っちゃいますよねぇ。全く♪」
短い黒髪を切りそろえ、爪を装備した女と、ツーテールに長身の男が、『それ』を見て苦笑いをしていた。
地に『生えた』、『嵐公女』。
丘が空けた胸の穴からは太い蔦が生え、鮮やかな色の花を咲かせている。
その周りには花畑。陽光が降り注ぎ、蝶が舞い蜂が飛ぶ。
花畑の淵から先は、かつて林だったはずの荒れ果てた赤土。
「どうするんですかぁ、これ?」
『銅』(あかがね)が獣爪を鳴らせば。
「そりゃあやっぱり、刈るしか無いんじゃないでしょうか?」
『星屑』が肩を竦める。
「一応、お仲間なんですけどねえ。」
面倒そうな口調の『銅』が、漂う濃厚な銀の匂いに顔を押さえる。
「『けど』、なんですか?」
『星屑』も銀の匂いを感じてはいるが、この『生えた』女と交わった為か、息苦しさは感じていないようだ。
むしろ清々しいとすら思える笑顔で女を見る。
「べっつにー。深い意味はありませんよ。
仲間だけど仲がいいわけじゃなし。」
「まあ、仲間なんてそんなもんですよねー。」
「経験でもあるので?」
「ええ、僕も仲間とは仲が良くない。
何しろ、もう全部死んでるから♪」
「それはそれは♪」
二人の間は、約25m。
通常のアビリティなら互いに手の届かない位置。
だが互いに通常の存在ではないのは感じ取っていたし、
互いを殺す気でいるのにはとっくに気づいていたから、
「助けるおつもりで?」
太く分厚い忍者刀を『星屑』が抜くと。
「助かれば、いいかなー?ぐらいですよ。」
『銅』が片手を突き出して。
『星屑』が、花園を踏みしめて円を描く。少しずつ『嵐公女』に近づくように。
『銅』が花畑の外周をめぐるように円を描く。彼との距離を一気に詰められるように。
『星屑』の刀が振り上がり、『嵐公女』の背に向けられた。
『銅』が牙道砲を放つ。彼の仕草が罠と承知で。
「……。」
「……。」
違わぬ狙いは紙一重。
『銅』の砲は『星屑』の頬を掠め、
『星屑』が砲に交わした水刃手裏剣は『銅』の服の脇を散らした。
「!」
先ほどとは違う、覚えの無い裂傷と、続く風切り音。
気づくや、『銅』が地に牙道砲を放った。
土砂が巻き上がり、草花が散る。
打ち込まれる水刃手裏剣の雨が浮かび上がり、両手の爪が踊って致命となる刃のみを打ち落とした。
やや血肉は散ったが臆する事も無く『銅』が踏み込む。
注ぐ土砂の中、交わるは龍の顎。
青龍の拳!
互いの手の内を覗いたのは僅かな時間。
『星屑』の刀が強く速く打ち込まれれば
『銅』の爪が柔らかくしなやかに切り返す。
汗が散る。
敵意が満ちる。
萎える様子は無く。
刃が鳴り、火花が散る。
呼吸の隙間。斬撃の隙間。
こじ開けるべき隙間を狙う細く鋭い刃が中空で踊り、
激しいステップが地煙を舞い上げ、止むことのない衝突音は共鳴し、鎌倉山全土に響き渡った。
「っ!」
突然『星屑』が顔を歪め飛び退った。
『銅』は好機と切り下ろしたが届かず、異変の元をすぐに知り自分も退る。
『星屑』の体から蔦が生え。
『銅』の目の前に、壊れた念動剣達が再生する。
「起きたか……。」
「では、わたしの役目おーわりっ♪」
『嵐公女』の背が戦慄くと、竜巻が起こり、黒雲が群れる。
花畑は赤土に取って代わり、『彼女』の体を這っていた蔦も千切れ去った。
「精々ミンチ肉が『残って』るように祈ってますよー♪」
ニタニタと笑いながら『銅』は走り去る。
蔦が疼かせる傷口を押さえて『星屑』が苦く笑う。
『嵐公女』は最早完全に目を開き、目の前の男を見つめていた。
輝くような笑顔で。
「ごきげんよう(^^)」
――――
激痛に目を覚ました丘が見たのは、鎌倉山山頂に念動剣で釘付けにされた己の体。
転がるシークレットブーツと、今度は破砕を免れた忍者刀。
そして、鎌倉山クリニックのあった場所に積まれた、白いモルタルの山だった。
丘は、刺し傷の隙間から生えた一本のシロツメクサを、暫くの間、慈しむように手で撫でていた。
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