あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【20XX年 封鎖特区 鎌倉】
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
―廃屋Pigeon-Blood
「小姐~…。まだ走るんでスかー?」
「もうちょっと…まだ走れます!!」
延々とアジトの周りを走りこむイドラに、"亡霊"はどうしたものかと瓦礫に腰をかける。
「あらあら精がでますわね」
「やや、首魁…」
日々の業務から逃げ出してきたのか。
廃屋の女主人、ピジョン・ブラッドは優雅に扇子を仰ぎながら"亡霊"の横に立っていた。
「ふふ、負けたのが余程くやしかったのですね」
「はぁ、ソレハもう。
あれからろくに休みもせずに、ガムシャラに訓練漬けですヨ」
どうしましょうと"亡霊"に問われ、ピジョンはふむと一息間をおく。
ぱちんと扇子が閉じると同時に、何かを思いついたのか、"首魁"が意地悪そうに微笑む。
"亡霊"は、小姐に悪いことをしてしまったかもしれないと思った。
「『組み手』ですか?」
「ええ、イドラさんがよければですけど…」
「お願いします!」
1秒もたたぬ間に返答が飛ぶ。
「結構。それでは始めましょうか」
"首魁"が己のカードを取り出し、イグニッションする。
後方に跳躍して間合いを離し、堂々と構えるイドラ。
(「構えは悪くない…が…」)
獣のように目を細めるピジョン。
「イドラさん、もうはじめてよろしいのかしら?」
「どうぞッ!!」
では、と腰を落とすピジョン。
向かってきたらカウンターだ、そう思い拳を引き絞るイドラ。
「イドラさんには言いにくいのですが…」
次の瞬間。
「生憎と、『この距離でも』わたしくの間合いですのよ?」
「ッ!!!?」
頭部をガードしながら振り返るイドラにピジョンの打撃が打ち込まれる。
「うはぁ、容赦ないイ…」
体育座りの"亡霊"がたまらず身震いする。
(「ん…なっ!!?」)
揺れる視界のまま下がるイドラ。
「あらあら、逃げていては敵は打倒できませんわよ?」
無理だ、間合いを離せない。宙を舞っているかのような身軽さで空を滑空し、ピジョンが上から襲い掛かる。
(「は…」)
上からの蹴りの嵐をかいくぐり、苦し紛れの布槍を放つ。
(「早過ぎる…ッ!!!!」)
右腕をつかまれ、投げ飛ばされるイドラ。
「ん…ッ!!!」
猫のように器用に体を捻り、着地体勢を整える。落下先には、ピジョン。
「…。遅すぎですわよ、イドラさん?」
アゴを掌底で打ちぬかれ、視界が反転した。どすんという音と共に地面が一気に接近してくる。
「…んっぐ…」
「話を伺った限りでは、"道化師"は速度を武器にするタイプのようですわね」
何秒か失神していたのか。四肢に力を込めて立ち上がるイドラ。
ピジョンは優雅に髪をたくし上げ、微笑む。
「そろそろ終わりにしますか?」
「…まだまだぁッ!!」
これぞ勝機と掴みかかるイドラ。対応するピジョン。
意識せずして互いの手は絡みあい、真正面からプロレスラーの如く押し合う構図となる。
「なるほど、こちらの動きを止めにきましたか…!」
「ッ…!!」
関節のきしむ音が耳にうるさい。
歯を食いしばり、絶対に崩れまいと万力のような力に対抗するイドラ。
「ですが、この程度…エアライダーには…。…ッ!?」
言いかけたところで、ピジョンがわずかに目を細める。
蹴りを出せない。いや正確には。
(「片足になった瞬間…潰される…!?」)
それまでは余裕綽々であったピジョンの心に、わずかに波が起こる。
「そうか…」
何かを思い出したように"亡霊"が立ち上がって呟く。
「何で今の今まで気づかなんだ…」
「ぐぅぅぅぅ……ッッ!!」
「む…!!」
押し返してくるイドラに、ピジョンの表情がついぞ引き締まる。
「イドラ小姐は…『気魄重視(パワー)タイプ』…ッ!!」
それの意味するところはつまり。
「小姐の正調比留間式防衛術は、姉の模倣…。
だが小姐の姉は、術式(スピード)を活かすタイプ…。
だからいけなかった! だから完全に極めることができなかった!!」
「負けないです…ッ!!」
「ふふ、わたくしだって譲りませんわよ…!?」
互いの足が地面にめり込み、大地に亀裂が走る。
「小姐には…小姐に『合った』防衛術を模索する必要があった!!
オリジナルの闘法!! 彼女の長所を活かす戦い方をッ!!」
勝てる。そう判断したイドラが雄(雌?)たけびと共に一気に踏み出す。
「こんのぉぉぉぉッッッッ!!!」
「…ッ! ハッ!!」
「…え?」
次の瞬間、イドラの視界は天井へと移り変わっていた。
「えっ!? あれ…え?」
「あ、小姐。気がつきましたカ!!」
横には椅子に腰掛けている"亡霊"の姿。どうやら自分はベッドに寝ていたらしい。
はてなと首をかしげると、体中から悲鳴が返ってきた。
「あっいだだだだぁっ!!?」
「アララ、あんまり動かない方がいいですヨ、小姐。
首魁の攻撃モロにくらってノックダウンしたんですから」
そこまで言われて、自分の記憶の空白が何を意味するかを理解したイドラは、しゅんとうなだれる。
「負けたんですか…わたし」
「ハハ、首魁に勝てる能力者なんて、この特区にそうそういませんヨ」
いや久々に空中での4段蹴りを見ましたと笑う"亡霊"。
「最後に小姐が踏み込んだ際、首魁が飛んだのまでは憶えマス?」
「あ、はい…。そうか、そこから…」
頭をかくイドラに、"亡霊"は更に続ける。
「ですが、戦い方の筋はアレで良かったと思いマスよ。
小姐は、小姐の長所を活かした戦い方をするべきです」
「え…?」
先の組み手で気がついた事を丁寧に説明していく"亡霊"。
イドラはその言葉一つ一つをかみ締めるように頷き、じっと考える。
「わたしの…オリジナル」
「小姐、受け継いだものには、
『断固として守るべきもの』と、『先に進めるべきもの』があります。
防衛術は…」
先に進めるべきもの、そうでしょと微笑むイドラに、"亡霊"はセリフをとられたかと肩をすくめておどけてみせる。
「さてさて。それではちょっと待っててくださいね、小姐。
食事を持ってきますので」
「あ、はい。お願いしますっ」
―1時間後
「お待たせしまシタ」
「………」
口をあけたまま動かないイドラ。
それもそのはず、食事を持ってくるといって、
目の前に『5、6人前も』一気に運んでくれば誰だって驚く。
「2人分にしては多くないですか…?」
「いや、これは全部小姐の分ですよ」
「ええええええぇぇぇっ!!?」
イドラの声が部屋に響く。
「む、無理です! というか他の子供達にわけてあげてくださいっ!」
「ダメです、小姐。食べるんです」
ふざけてやっているわけではないと、"亡霊"の語気が語っていた。
「でも…」
「廃屋の住人の事なら心配なく。首魁が身内の空腹を見逃すわけないじゃないですか」
「…は、はあ」
それでもどこか遠慮するイドラに、"亡霊"は言葉を続ける。
「食べるんです、小姐。食べて強くならなければ、誰も守れない」
「…っ」
「消化がよく、栄養価が高いものを選択したつもりです。
骨を、筋肉を、以前よりも強く大きく再構築してくれます」
食べてください。再度それを繰り返し、"亡霊"が言葉を終える。
「…。わかりました」
イドラは何か決意めいた表情で、ただそれだけ言った。
「いただきます!!」
特区内で貴重な果物に手を伸ばす。
バナナを一房わしづかみ、一本一本剥いて口の中に放り込む。
―もぐもぐもぐもぐ…
何度何度も咀嚼を繰り返し、
ドロドロになったところで炭酸を抜いた清涼飲料水で一気に流し込む。
―がっ…がっ…
おかゆだろうか。様々な野菜と共に煮込まれたそれをスプーンで目一杯すくいあげ、石炭を欲する蒸気機関車のように次から次へと米を貪る。
―ぽい…。~~~~~~っっ
梅干を2、3個口の中に放り込む。すさまじい酸味で唾液が一気に口の中にあふれ出す。種の中身までしっかり噛み砕き、喉に通す。
―むしゃ…もぐもぐもぐもぐ…むしゃ
今度は別のおかゆに手を伸ばす。肉入りだ。久々に食べるなぁと思いながら一心不乱に噛み、飲み込む。
柔らかい肉の触感が歯に心地よい。
体の奥が熱くなってきた。
上着を脱ぎ、帽子をおき、いよいよ本気で食事にとりかかるイドラ。
"亡霊"はその食べっぷりに満足げに微笑むのみ。
戦うように食らうイドラの瞳は、勝利に飢えてギラついていた。
目の前を過ぎ去る"道化師"の幻影。
(「意地でも強く、なってやる…ッッ!!!」)
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
―廃屋Pigeon-Blood
「小姐~…。まだ走るんでスかー?」
「もうちょっと…まだ走れます!!」
延々とアジトの周りを走りこむイドラに、"亡霊"はどうしたものかと瓦礫に腰をかける。
「あらあら精がでますわね」
「やや、首魁…」
日々の業務から逃げ出してきたのか。
廃屋の女主人、ピジョン・ブラッドは優雅に扇子を仰ぎながら"亡霊"の横に立っていた。
「ふふ、負けたのが余程くやしかったのですね」
「はぁ、ソレハもう。
あれからろくに休みもせずに、ガムシャラに訓練漬けですヨ」
どうしましょうと"亡霊"に問われ、ピジョンはふむと一息間をおく。
ぱちんと扇子が閉じると同時に、何かを思いついたのか、"首魁"が意地悪そうに微笑む。
"亡霊"は、小姐に悪いことをしてしまったかもしれないと思った。
「『組み手』ですか?」
「ええ、イドラさんがよければですけど…」
「お願いします!」
1秒もたたぬ間に返答が飛ぶ。
「結構。それでは始めましょうか」
"首魁"が己のカードを取り出し、イグニッションする。
後方に跳躍して間合いを離し、堂々と構えるイドラ。
(「構えは悪くない…が…」)
獣のように目を細めるピジョン。
「イドラさん、もうはじめてよろしいのかしら?」
「どうぞッ!!」
では、と腰を落とすピジョン。
向かってきたらカウンターだ、そう思い拳を引き絞るイドラ。
「イドラさんには言いにくいのですが…」
次の瞬間。
「生憎と、『この距離でも』わたしくの間合いですのよ?」
「ッ!!!?」
頭部をガードしながら振り返るイドラにピジョンの打撃が打ち込まれる。
「うはぁ、容赦ないイ…」
体育座りの"亡霊"がたまらず身震いする。
(「ん…なっ!!?」)
揺れる視界のまま下がるイドラ。
「あらあら、逃げていては敵は打倒できませんわよ?」
無理だ、間合いを離せない。宙を舞っているかのような身軽さで空を滑空し、ピジョンが上から襲い掛かる。
(「は…」)
上からの蹴りの嵐をかいくぐり、苦し紛れの布槍を放つ。
(「早過ぎる…ッ!!!!」)
右腕をつかまれ、投げ飛ばされるイドラ。
「ん…ッ!!!」
猫のように器用に体を捻り、着地体勢を整える。落下先には、ピジョン。
「…。遅すぎですわよ、イドラさん?」
アゴを掌底で打ちぬかれ、視界が反転した。どすんという音と共に地面が一気に接近してくる。
「…んっぐ…」
「話を伺った限りでは、"道化師"は速度を武器にするタイプのようですわね」
何秒か失神していたのか。四肢に力を込めて立ち上がるイドラ。
ピジョンは優雅に髪をたくし上げ、微笑む。
「そろそろ終わりにしますか?」
「…まだまだぁッ!!」
これぞ勝機と掴みかかるイドラ。対応するピジョン。
意識せずして互いの手は絡みあい、真正面からプロレスラーの如く押し合う構図となる。
「なるほど、こちらの動きを止めにきましたか…!」
「ッ…!!」
関節のきしむ音が耳にうるさい。
歯を食いしばり、絶対に崩れまいと万力のような力に対抗するイドラ。
「ですが、この程度…エアライダーには…。…ッ!?」
言いかけたところで、ピジョンがわずかに目を細める。
蹴りを出せない。いや正確には。
(「片足になった瞬間…潰される…!?」)
それまでは余裕綽々であったピジョンの心に、わずかに波が起こる。
「そうか…」
何かを思い出したように"亡霊"が立ち上がって呟く。
「何で今の今まで気づかなんだ…」
「ぐぅぅぅぅ……ッッ!!」
「む…!!」
押し返してくるイドラに、ピジョンの表情がついぞ引き締まる。
「イドラ小姐は…『気魄重視(パワー)タイプ』…ッ!!」
それの意味するところはつまり。
「小姐の正調比留間式防衛術は、姉の模倣…。
だが小姐の姉は、術式(スピード)を活かすタイプ…。
だからいけなかった! だから完全に極めることができなかった!!」
「負けないです…ッ!!」
「ふふ、わたくしだって譲りませんわよ…!?」
互いの足が地面にめり込み、大地に亀裂が走る。
「小姐には…小姐に『合った』防衛術を模索する必要があった!!
オリジナルの闘法!! 彼女の長所を活かす戦い方をッ!!」
勝てる。そう判断したイドラが雄(雌?)たけびと共に一気に踏み出す。
「こんのぉぉぉぉッッッッ!!!」
「…ッ! ハッ!!」
「…え?」
次の瞬間、イドラの視界は天井へと移り変わっていた。
「えっ!? あれ…え?」
「あ、小姐。気がつきましたカ!!」
横には椅子に腰掛けている"亡霊"の姿。どうやら自分はベッドに寝ていたらしい。
はてなと首をかしげると、体中から悲鳴が返ってきた。
「あっいだだだだぁっ!!?」
「アララ、あんまり動かない方がいいですヨ、小姐。
首魁の攻撃モロにくらってノックダウンしたんですから」
そこまで言われて、自分の記憶の空白が何を意味するかを理解したイドラは、しゅんとうなだれる。
「負けたんですか…わたし」
「ハハ、首魁に勝てる能力者なんて、この特区にそうそういませんヨ」
いや久々に空中での4段蹴りを見ましたと笑う"亡霊"。
「最後に小姐が踏み込んだ際、首魁が飛んだのまでは憶えマス?」
「あ、はい…。そうか、そこから…」
頭をかくイドラに、"亡霊"は更に続ける。
「ですが、戦い方の筋はアレで良かったと思いマスよ。
小姐は、小姐の長所を活かした戦い方をするべきです」
「え…?」
先の組み手で気がついた事を丁寧に説明していく"亡霊"。
イドラはその言葉一つ一つをかみ締めるように頷き、じっと考える。
「わたしの…オリジナル」
「小姐、受け継いだものには、
『断固として守るべきもの』と、『先に進めるべきもの』があります。
防衛術は…」
先に進めるべきもの、そうでしょと微笑むイドラに、"亡霊"はセリフをとられたかと肩をすくめておどけてみせる。
「さてさて。それではちょっと待っててくださいね、小姐。
食事を持ってきますので」
「あ、はい。お願いしますっ」
―1時間後
「お待たせしまシタ」
「………」
口をあけたまま動かないイドラ。
それもそのはず、食事を持ってくるといって、
目の前に『5、6人前も』一気に運んでくれば誰だって驚く。
「2人分にしては多くないですか…?」
「いや、これは全部小姐の分ですよ」
「ええええええぇぇぇっ!!?」
イドラの声が部屋に響く。
「む、無理です! というか他の子供達にわけてあげてくださいっ!」
「ダメです、小姐。食べるんです」
ふざけてやっているわけではないと、"亡霊"の語気が語っていた。
「でも…」
「廃屋の住人の事なら心配なく。首魁が身内の空腹を見逃すわけないじゃないですか」
「…は、はあ」
それでもどこか遠慮するイドラに、"亡霊"は言葉を続ける。
「食べるんです、小姐。食べて強くならなければ、誰も守れない」
「…っ」
「消化がよく、栄養価が高いものを選択したつもりです。
骨を、筋肉を、以前よりも強く大きく再構築してくれます」
食べてください。再度それを繰り返し、"亡霊"が言葉を終える。
「…。わかりました」
イドラは何か決意めいた表情で、ただそれだけ言った。
「いただきます!!」
特区内で貴重な果物に手を伸ばす。
バナナを一房わしづかみ、一本一本剥いて口の中に放り込む。
―もぐもぐもぐもぐ…
何度何度も咀嚼を繰り返し、
ドロドロになったところで炭酸を抜いた清涼飲料水で一気に流し込む。
―がっ…がっ…
おかゆだろうか。様々な野菜と共に煮込まれたそれをスプーンで目一杯すくいあげ、石炭を欲する蒸気機関車のように次から次へと米を貪る。
―ぽい…。~~~~~~っっ
梅干を2、3個口の中に放り込む。すさまじい酸味で唾液が一気に口の中にあふれ出す。種の中身までしっかり噛み砕き、喉に通す。
―むしゃ…もぐもぐもぐもぐ…むしゃ
今度は別のおかゆに手を伸ばす。肉入りだ。久々に食べるなぁと思いながら一心不乱に噛み、飲み込む。
柔らかい肉の触感が歯に心地よい。
体の奥が熱くなってきた。
上着を脱ぎ、帽子をおき、いよいよ本気で食事にとりかかるイドラ。
"亡霊"はその食べっぷりに満足げに微笑むのみ。
戦うように食らうイドラの瞳は、勝利に飢えてギラついていた。
目の前を過ぎ去る"道化師"の幻影。
(「意地でも強く、なってやる…ッッ!!!」)
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