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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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#19
【IF Another despair】怪物の定義

「もしもし……。
  ああ、すいません、下手踏みました……。
  流石に報告入ってますか。
  カマクラヤマ、ね。一人で丸裸にしたやつが、いまして……ああっ、くそっ!
  僕も内臓割られちゃって、ちょっと動けないんですよ……。
  はい……どこに行ったかはこれから追跡です……。
  緑色の髪の……色白の女で、ああっはっ、けへっ!念動剣を多数、所持……してます。
  サンプルを一本……駐屯の奴に渡しますから……。
  ……遠くから狙撃じゃないと無理です。近づかれたら戦車でもひっくり返しちゃいますよ、いや、マジで。
  頑丈さも……正直言って出会ったことがない……レベルでして……。
  ……はい。わかりました。サンプルはいいんですね?捨てて行きますよ?
  カマクラヤマ、引き続きクリア、はい、了解……。
  ……。
  ……あ、あともう一人、気をつけてください。こっちは……短い黒髪の女で……。
  牙道忍者で青龍拳士……僕に似たタイプで……勤勉なアサシンです……。
  ……ええ、何とかします。それまではカマクラヤマには近づかないでください、すいません……げほっ!
  ……それは大丈夫です。『宗主』は倒れます。必ず。今回で。
  根拠?……『我々が正義だから』に、決まってるじゃありませんか♪
  じゃ、行ってきます……。」
 
――――
 
 今は亡き、一世代前の能力者、筧・次郎は、常々、こう語っていた。
 
 社会に迎合しないものは間違いなく悪である。
 自分勝手にナイフや刀や銃を振り回すものは、野獣と同じ。
 排除し否定しなければ社会が破綻する。
 そういう理不尽な暴力を振るうものは、人と人の間を否定するもの、つまり『人間ではないもの』だ。
 人間ではないから、人権などない。
 人間でなければ何と呼ぶ?
 犯罪者?ヤクザ?無法者?危険人物?
 
 違う。『野獣と同じ』だ。駆逐しきれていない野性の獣。古に神と崇められ悪魔と恐れられた多くの獣たちと同じ。
 
 すなわち。『バケモノ』なのだ。
 
――――
 
 押さえた脇腹から血が滲む。
 念動剣で貫かれた傷は消化器官と下部の肋骨にまで至り、地面まで届いたそれを抜き去る際にまた幾分傷を広げた。
 能力者の頑丈さゆえ、出血は八割ほど止まりかかっているものの、完全修復には程遠い。
 
 「おなかが減ったな。」
 
  鎌倉山クリニックの瓦礫の上に座る。
 一食分のレーションは食べたものの、飢餓感は収まらない。
 消化器官がイカれているから吸収のしようがないというのもあるのだろうが……。
 
 モルタルを掘り起こす。
 子供の死体。『祈らず(ノンプレイヤー)』の一員だった幼き能力者の成れの果て。ちぎれたその手に握られているのは、レベルの低い詠唱ガトリングガン。
 丘はガトリングガンに自分の剣を何度も叩きつけ、回転動力炉を折り取った。
 動力炉のスイッチを入れると、銀が雫となって零れ落ちる。
 丘はその銀を、舌の上に垂らし嚥下した。
 
 動力炉から落ちる雫は、エネルギーのなりそこない。
 平たく言えば、熱せられたガソリンのようなもの。丘の舌から喉を生物を冒す毒が焼いたが、意に介さず飲み干す。
 
 「ふう……。」
 
 いくらかは飢餓感が和らいだ。
 丘は霧影分身術を実行し、付随する肉体回復の効果を試してみる。
 丘の周りに桐で出来た幻が揺らめくと、内臓の痛みが見る見るうちに消えていった。
 
 「やはりか。」
 
 前回の『嵐公女』との対戦で丘の身に染み込んだ詠唱銀の血液は、少しずつ、丘の肉体を能力者の領域から押し出しつつある。
 『嵐公女』の目覚めのときに彼の体から生えた蔦も、彼女の覚醒に呼応して、丘の中の、『嵐公女』の『詠唱血液』が反応したものだろう。
 
 「……。」
 
 丘が立ち上がる。任務の遂行の為に。現在確認されている、『あの』最大遊撃勢力を排除するために。
 三度目。三度目だ。
 一度目は心の臓を貫いたが殺しきれず逆襲を食らい、
 二度目は殺す価値も無いと見なされ生きたまま山のオブジェにされた。
 三度目は。三度目は必ず。
 
 瓦礫から詠唱兵器をいくつか掘り出し、回転動力炉を折り取りポケットに入れると、丘は歩き出した。
 遠くからでも良く見える、黒雲の渦に向かって。
 
 「『ムーンライズ』、と言いましたっけ。」
 「……あなたが、降りてくるの、見て、わたし、迎えに来た、です。」
 
 そこに佇んでいた女性が、うなずく。
 
 「『祈らず』はまだ、生きているのですね。」
 「あの人は、生きていなければ、いけない、から。」
 「あなたが殿(しんがり)を。」
 「……瓦礫の下は、もう死んでる子、だけ……。」
 「生きてる子は?」
 「南に、シチリガハマ・ヒガシに、行きました。あそこ、まだ安全、ですから。」
 「……あははははははは!!!!!」
 
 突然笑い出した丘に、『ムーンライズ』が肩を震わせる。
 
 「?」
 
 何ということだ!
 『幽霊せせり』を置き去って逃げて、ぐるりと鎌倉西部を視察した挙句、そこに戻ってきたと言う事か!
 
 「はははははっ……ああ、いたたたた……。
  あはははは……それなら安心ですね……。」
 「……?」
 「シチリガハマヒガシならば『掃除屋』と名乗る二人組を頼ってください。
  頼りになりますよ♪」
 「『掃除屋』。わかった、です。
 ……ところで。」
 「はぁい?」
 
 『ムーンライズ』が、僅かに鋭い目つきで丘の目を見た。
 
 「銀を……飲んでた、ですか。」
 「病気でね♪」
 「……。」
 「『祈らず』はどこに?」
 「東に向かった、です。エリア・ゴクラクジを南下して……浜沿いに由比ガ浜から東に向かう、とか……。」
 「では、追撃の準備をしませんとね♪案内してくれます?シチリガハマヒガシまで♪
  どうやらまだ、追いつかれてはいないみたいですしね♪」
 
 東の空に浮かぶ小さな黒雲が、怒るように雷を迸らせながらじわじわと東に向かっているのが遠目で見える。
 『ムーンライズ』がうなずくと、二人は熟練した能力者のしなやかな足取りで、山を降りていった。
 
――――
 
 対面して“やはやは♪”と挨拶した丘を『幽霊せせり』はとりあえずハリセンでぶった。
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