ex.35

【IF Another despair】風に吹かれてお姫様

コシゴエ・エリア付近のとある居住区。
教団の影に怯えながらも細々とした生活が営まれる、小さなコミュニティ。
今日のお天気は曇りの後にまた曇り。
銀色の雨が降る心配はありませんが、洗濯物は乾きにくいでしょう。
そんな沈んだ空の下、ひょこひょこ揺れる一本毛。
軽いステップ陽気なリズム
グルグルおめめと弾むボデーの一部分。
着物の裾をはためかせ、気分はときめきお姫様。


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もし？
お忙しいところ、失礼します。
ああ、お客様ではありませんよ、ごめんなさいね。
実は私、人を探している途中なんです。
ええと……あ、ありました。
こういう方なのですが、お見かけした事はないでしょうか？



あ、いえいえ違いますよ。
確かにそれは“教団”の手配書ですけれど、私は“教団”とは無関係ですから。
……関係を持った事はありますけれど、ね。
いえいえ、こちらの話です。
それで、見覚えは？
ひょっとしたら衣装くらいは変わっているかも知れないのですが。
どんな人かって？
えっと……そうですね。
口が悪くて目つきも悪くて姿勢と意地もちょっぴり悪くて近寄りにくい
オーラを出してて話しかけてもすぐ無視とかして食生活に気を遣わなく
て清潔感もあんまりなくて喧嘩っ早くて物騒で気が短くて強情で人の親
切とか好意とか凄く嫌がっておまけに他人のこと信じてなくて触られた
りするとすぐ怒ってそうでなくても怒ってて冗談とかにもすぐ噛み付い
て冗句とかにもまた牙剥いてなんだかお腹が減ってるわんわんみたいに
ギラギラハートの一匹狼で………
あぅ？
あ、ごめんなさい。つい喋りすぎてしまいました。
えっと、でも、誤解しないでくださいね？
本当は――とっても優しい人なんですよ。
それで、そんな人なのですけれど、ご存知ありませんか？
………そうですか。
ありがとうございます。
お仕事中お邪魔いたしました。
……え？　はい、なんでしょう？
どうしてそんな怖い奴を探してるのかって？
あら、そんなに怖い人でもないのですよ？
どちらかと言えば可愛い方なのですが……あ、ごめんなさい。
そうですね――何故なのでしょう。
私にもよく判っていないのです。
会ってどうするのか、とか。
どうして会いたいのか、とか。

ただ、会いたいだけなんです。

それだけ、なんですよ？
ふふ、たしかに変ですね。
私もそう思います………って、もしもし？
どうかなさいました？　私の顔、何かついてますか？
大丈夫？　
良かった。ならいいんです。
では、私はこれで失礼致しますね。
………
………………
………………………
はい？　私の名前ですか？
ええ、もちろん構いませんよ。

私は“乳草姫（ラプンツェル）”と申します。

はい、それではまた。
ごきげんよう、おじさま。

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「うーん、今日も収穫無しかー」
人目の無い町外れまでやってきて、うにゃー、と大きく伸び一つ。
今日も『彼』の情報は無し。
やっぱり聞き込みといえば足使わなきゃだよね！
と気楽に飛び出してきたは良いものの、案外これって効率悪い？
昔の刑事さんはみんなこうしてたのになー。捜査の基本は足だ！
って言ってたのは嘘だったのかな。
それとも……やっぱりデカじゃないとだめなのか。
ひょっとするとそろそろ捜査方針転換の時期、というやつなのだろうか！
探し始めて三日目なのに！
「むむー、でも、仕方ないよね。背に腹は変えられぬ、だよ」
うんうん。なんだかかっこいーことを言えた気がする。
そういえばこの辺に情報を取り扱っている“発掘屋”さんがあるって
お客さんが言ってたっけ。発掘屋さんなのに情報屋さんってなんだろう、
って不思議だったから覚えてる。
んー、どうしよう。
まずはそこに行ってみようかな。
それでも駄目だったら、もっと人の多いとこに行ってみよう。
これぞ名付けて『わからない事は人に聞く！』作戦なのだ！！
あれ？　聞き込みと一緒じゃないかな、これ。
………まぁ、いっか。
気持ちを切り替えて歩き出す。
目指すはひとまず情報屋さんな“発掘屋”さん。
ひょこひょこ揺れる一本毛。
軽いステップ陽気なリズム
グルグルおめめと弾むボデーの一部分。
着物の裾をはためかせ、気分はときめきお姫様。

「待っててね、私の王子様☆」


曇り空でも何のその。
恋する乙女はこんな時代でもやっぱりムテキなのだった。