あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【カマクラヤマ】
――さりっ、ざりっ
この作業はほとんどの場合、自らの精神安定と言う意味しか持たない。
もとよりコレは「銃」としての体裁を保ってはいるが、その実単なる拠り代でしか無いのだから。
――チン!しゃちっ!
遊底(スライド)の形をした魔力加速器、弾倉(マガジン)の体を成した回転動力炉。
すなわち「詠唱銃」と一般に呼ばれる大多数のそれと同じく、コレもまた形を模しているだけだ。
火薬を用いて鉛の弾を撃ち出すと言う機構の概念に仮託しているに過ぎない。頻繁な整備の必要は無いのである。
――がきっ、ぎりっ
それでも一拍の淀みなく作業をこなす手つきは、我ながら無駄が無いと思う。
もともと手先が器用でもない自分がこうまで習熟しているのには、勿論プロの矜持もあるが、それ以上にこの作業が無心を伴うからだろう。
涼しげな金属音と自分の規則正しい息遣いのみが支配するひと時は、存外に悪くないものだ。
だから、作業自体は眼を隠したって出来る。こうやって、肩に端末を挟んで会話しながらなんて朝飯前なのだ。
「ええ、ええ。そうです~。
カマクラヤマのね。アレは間違いなく『嵐公女』ですわ。
遠くから見ただけでっけどなぁ、根付いたりまた動き出してみたりでもう。ええ。
は?サンプル?何ですのん、小汚い念動剣は仰山うっちゃってましたけどなぁ。拾って来いて?
しんどいこと言わはるなぁ。たいぎぃわー。まあ、回収できたら次の『繋ぎ』の時にでも。へえ。」
後は、マガジンをはめるだけ…
「ほな、例の補給のほうは次を早めて…
ええ、ええ。現地の小さい連中ですけど、戦意は非常に高いものと。
……え?なに?全滅、て…何ですのん。それ。」
作業の手が、止まった。止めざるを得なかった。
「補給の部隊と、まとめて。皆殺し?でっか?
さよかー。そら困りましたなぁ。あっあー、真面目に聞いてますて♪
そない大声出さんと、聞こえてまっさかい。ええ、ええ。ほな次は無しで?わっかりました~♪
えー?『猫』はどうか知らへんけどー。」
――がちゃり。
「『星屑』の小僧はテッパンでガチじゃろノ!!」
――チン。
――――
『宗主』は、文字通りの魔王である。
物理的に?多くの兵を従えているから?
そんな些事で語らずとも、それはもはやどうしようもなく人類の敵なのだ。
すなわち、「言葉が通じる相手ではない」と言うただこの一点において、である。
あたかもクラシックなコンピューターゲームに君臨する大魔王のごとく、ひたすら人間に仇なす存在。それが『宗主』なのだ。
敵意や悪意の有無など関係ない。彼が何を思い、何を以て力を振るうのかは関係ない。
それは「獣」なのだ。
人に理解出来ない、人と理解し合えない力を曰く「理不尽」と呼ぶ。
人の理に従わない力は、文明の灯りを以て駆逐されねばならない。でなければ人間の社会は成り立たない。
それらが普遍な人力の歯が立たないレベルに至ったとき、人は彼を「バケモノ」と呼ぶ。
――――
【特区某所】
「おおゆうしゃよ。死んでしまうとは」
なにごとだ。
蹴った石ころは、よくよく見れば砕け散った骨片だった。
そこらじゅうに散らばっているのも同様だろう。
此処は確かに、ある一定の勢力を持つレジスタンスのアジト『だった』のだ。それも、つい数日前まで。
それはそうだ、自分が繋ぎを取ったのだから。
なんとなれば、政府(おうさま)は能力者の滅亡は望んでも、魔王の一人勝ちは避けたかったのだ。
そうなってしまえば最後、強硬な手段を持って魔王を滅ぼさなければならない。
「そやから、ウチが話つけて…思たんやけどなぁ…」
確かな戦意と、頑強な口を持つと見込んだ人物。
眼鏡違い?だとすれば、自分の不明を恥じるばかり…だ、が、それもNOだ。
地道な調査と情報操作で、確実にそうと思える者にしか伝えていない。その後の監視も含めての密偵なのだ。
一体どこから漏れたのか?情報を漏らして得のある人間にはそもそも伝えていない。
「さすがにアジト内部でのやり取りまでは完璧ではないが」仲間内に漏らした様子も見られないのだ。
だが、結果として、勇者たちはどうのつるぎと僅かな金貨をすら得る事も叶わずに、無残な屍を晒していた。
ご丁寧に物資は全て持ち去られ、逆に持ち込んだ政府の小部隊は全滅と言う。
これでアラカワ氏は大いに面目を潰した事だろう。
他に入り込んでいるエージェントの現状は知らないが、いなりへの支援は露骨に枯渇しはじめた。
それはいい。しばらく飲まず食わずでも死にはしないし、自分の腕があれば生き残る事は容易だ。
しかし、おかしい。どう考えてもおかしいのだ。
確かに、向こうからも諜報戦は仕掛けてきている。明晰な頭脳がトップに存在する事を否応なく感じさせるそれは、「教団」の優れた情報網と組織力を遺憾なく発揮した結果と言える。だがこちらとてそれは元より承知の上での小規模、いわば草の根…文字通り「草」の密偵である。
そう、今までも強大な知性を掻い潜っての繋ぎだったのだ。それなのに、なぜ今になって急に潰されたのか?内部から漏れたとしか考えられないが、それは一番考えられないのである。
分からない。分からないが、このままではバランスが取れない。
『嵐公女』の動きからして、彼女を中心とした大規模な戦闘が勃発するであろう事は間違いないのだ。
言うまでもなく、『黙示録の獣(リヴァィアサン)』も姿を見せる事だろう。
「ちぇっ。自分の手ぇ出す密偵なんて、丘君に笑われるなぁ。いややわ、ほんま」
だが、仕方がない。もう一度だけ、銃の手入れをしておこう。
あとは、揃えられるだけの呪符と…
「場合によっては『九尾』の顕現もやむなし、かなぁ。
ウチの仕込みをブチ壊してくれたんは、お礼しとかなあかんわなぁ♪」
磨き上げたスライドに映り込む自分に向って、無理に笑顔を作って見せた。
まだ見ぬ敵手へ、鮫のような笑顔を見せるために。
――さりっ、ざりっ
この作業はほとんどの場合、自らの精神安定と言う意味しか持たない。
もとよりコレは「銃」としての体裁を保ってはいるが、その実単なる拠り代でしか無いのだから。
――チン!しゃちっ!
遊底(スライド)の形をした魔力加速器、弾倉(マガジン)の体を成した回転動力炉。
すなわち「詠唱銃」と一般に呼ばれる大多数のそれと同じく、コレもまた形を模しているだけだ。
火薬を用いて鉛の弾を撃ち出すと言う機構の概念に仮託しているに過ぎない。頻繁な整備の必要は無いのである。
――がきっ、ぎりっ
それでも一拍の淀みなく作業をこなす手つきは、我ながら無駄が無いと思う。
もともと手先が器用でもない自分がこうまで習熟しているのには、勿論プロの矜持もあるが、それ以上にこの作業が無心を伴うからだろう。
涼しげな金属音と自分の規則正しい息遣いのみが支配するひと時は、存外に悪くないものだ。
だから、作業自体は眼を隠したって出来る。こうやって、肩に端末を挟んで会話しながらなんて朝飯前なのだ。
「ええ、ええ。そうです~。
カマクラヤマのね。アレは間違いなく『嵐公女』ですわ。
遠くから見ただけでっけどなぁ、根付いたりまた動き出してみたりでもう。ええ。
は?サンプル?何ですのん、小汚い念動剣は仰山うっちゃってましたけどなぁ。拾って来いて?
しんどいこと言わはるなぁ。たいぎぃわー。まあ、回収できたら次の『繋ぎ』の時にでも。へえ。」
後は、マガジンをはめるだけ…
「ほな、例の補給のほうは次を早めて…
ええ、ええ。現地の小さい連中ですけど、戦意は非常に高いものと。
……え?なに?全滅、て…何ですのん。それ。」
作業の手が、止まった。止めざるを得なかった。
「補給の部隊と、まとめて。皆殺し?でっか?
さよかー。そら困りましたなぁ。あっあー、真面目に聞いてますて♪
そない大声出さんと、聞こえてまっさかい。ええ、ええ。ほな次は無しで?わっかりました~♪
えー?『猫』はどうか知らへんけどー。」
――がちゃり。
「『星屑』の小僧はテッパンでガチじゃろノ!!」
――チン。
――――
『宗主』は、文字通りの魔王である。
物理的に?多くの兵を従えているから?
そんな些事で語らずとも、それはもはやどうしようもなく人類の敵なのだ。
すなわち、「言葉が通じる相手ではない」と言うただこの一点において、である。
あたかもクラシックなコンピューターゲームに君臨する大魔王のごとく、ひたすら人間に仇なす存在。それが『宗主』なのだ。
敵意や悪意の有無など関係ない。彼が何を思い、何を以て力を振るうのかは関係ない。
それは「獣」なのだ。
人に理解出来ない、人と理解し合えない力を曰く「理不尽」と呼ぶ。
人の理に従わない力は、文明の灯りを以て駆逐されねばならない。でなければ人間の社会は成り立たない。
それらが普遍な人力の歯が立たないレベルに至ったとき、人は彼を「バケモノ」と呼ぶ。
――――
【特区某所】
「おおゆうしゃよ。死んでしまうとは」
なにごとだ。
蹴った石ころは、よくよく見れば砕け散った骨片だった。
そこらじゅうに散らばっているのも同様だろう。
此処は確かに、ある一定の勢力を持つレジスタンスのアジト『だった』のだ。それも、つい数日前まで。
それはそうだ、自分が繋ぎを取ったのだから。
なんとなれば、政府(おうさま)は能力者の滅亡は望んでも、魔王の一人勝ちは避けたかったのだ。
そうなってしまえば最後、強硬な手段を持って魔王を滅ぼさなければならない。
「そやから、ウチが話つけて…思たんやけどなぁ…」
確かな戦意と、頑強な口を持つと見込んだ人物。
眼鏡違い?だとすれば、自分の不明を恥じるばかり…だ、が、それもNOだ。
地道な調査と情報操作で、確実にそうと思える者にしか伝えていない。その後の監視も含めての密偵なのだ。
一体どこから漏れたのか?情報を漏らして得のある人間にはそもそも伝えていない。
「さすがにアジト内部でのやり取りまでは完璧ではないが」仲間内に漏らした様子も見られないのだ。
だが、結果として、勇者たちはどうのつるぎと僅かな金貨をすら得る事も叶わずに、無残な屍を晒していた。
ご丁寧に物資は全て持ち去られ、逆に持ち込んだ政府の小部隊は全滅と言う。
これでアラカワ氏は大いに面目を潰した事だろう。
他に入り込んでいるエージェントの現状は知らないが、いなりへの支援は露骨に枯渇しはじめた。
それはいい。しばらく飲まず食わずでも死にはしないし、自分の腕があれば生き残る事は容易だ。
しかし、おかしい。どう考えてもおかしいのだ。
確かに、向こうからも諜報戦は仕掛けてきている。明晰な頭脳がトップに存在する事を否応なく感じさせるそれは、「教団」の優れた情報網と組織力を遺憾なく発揮した結果と言える。だがこちらとてそれは元より承知の上での小規模、いわば草の根…文字通り「草」の密偵である。
そう、今までも強大な知性を掻い潜っての繋ぎだったのだ。それなのに、なぜ今になって急に潰されたのか?内部から漏れたとしか考えられないが、それは一番考えられないのである。
分からない。分からないが、このままではバランスが取れない。
『嵐公女』の動きからして、彼女を中心とした大規模な戦闘が勃発するであろう事は間違いないのだ。
言うまでもなく、『黙示録の獣(リヴァィアサン)』も姿を見せる事だろう。
「ちぇっ。自分の手ぇ出す密偵なんて、丘君に笑われるなぁ。いややわ、ほんま」
だが、仕方がない。もう一度だけ、銃の手入れをしておこう。
あとは、揃えられるだけの呪符と…
「場合によっては『九尾』の顕現もやむなし、かなぁ。
ウチの仕込みをブチ壊してくれたんは、お礼しとかなあかんわなぁ♪」
磨き上げたスライドに映り込む自分に向って、無理に笑顔を作って見せた。
まだ見ぬ敵手へ、鮫のような笑顔を見せるために。
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