あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【20XX年 封鎖特区 鎌倉】
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
封鎖特区の片隅には、謎の義侠集団の噂があった。
名も知らぬ弱者を助け、
横暴を働く強者を叩く。
そんなステレオタイプの『ヒーロー』のような集団がこの荒廃した世界にいるというのだ。
曰く、真紅。
曰く、凶鳥。
では、ここでその義侠集団に遭遇したという少女の話をしよう。
その日、少女は病気の母親の為に薬を買いに町まで来ていた。
ショートカットの黒髪、帽子を目深に被り、ジャケットを重ね着、下はズボンと男装をしてはいるが、
思春期を向かえ膨らみ始めた両の胸と、その張りのある白い肌から滲み出る青い色香は隠しようがなかった。
町は、嫌いだった。
怖い人たちがたくさんいて、怖い事が、たくさんある。
でも、母親の為に自分がしっかりせねば。この世界を生きていかなくては。
少女は薬の入った紙袋を抱え、下卑びた笑いを浮かべる男達の視線に耐えながら俯き加減で町を歩く。
「あっ」
――トスン。
俯き加減で歩いていたのが悪かったのか、前から来た人影に少女は衝突し、抱えていた紙袋を取り落としてしまう。
「す、すみません!」
謝りながら、少女は慌てて散乱した紙袋の中身を詰め直していく。
あまりここで人と関わりたくはなかった。余計なトラブルに巻き込まれる元になる。
「いえいえ、こちらも前方不注意でしたわ。お気になさらず」
その凛とした声に少女が顔を上げると、其処には紅いドレスを纏った人物が散乱した薬を拾い集めていた。
その髪は金色。この薄暗い路地裏にあって尚、美しく光り輝いている。
「はい、これで全部ですわよね?」
思わず見惚れていた少女は、あ、はい!と素っ頓狂な声を上げて薬を受け取る。
それを見て金髪の女性はふふ、と微笑をこぼした。
「あの、ありがとうございました」
「この辺の一人歩きは危ないですわよ?どうぞお気をつけて」
では、と優雅にスカートを翻し金髪の女性は路地裏の闇の中に溶けていく。
紙袋を抱えたまましばし呆然と立ち尽くしていた少女は、母のことを思い出し、慌ててその場を後にした。
瓦礫を踏み越え、少女は家路につく。
少女の家、家といっても掘っ立て小屋の様なものであるが、ゴーストや能力者絡みのトラブルを避けるため、町からやや離れた所にある。
しかも道は舗装されておらず、車両の通行はほぼ不可能。
徒歩で行くには少々の距離があった。
半分ほどまで来ただろうか、辺りは黄昏時を経て夜の帳が下りていた。
コンクリートの破片に腰掛け、リュックの脇ポケットに差した金属製の水筒を取り出し蓋を開けると一口、二口と中の飲料水を喉へと流す。
火照った身体を魔法瓶の中の冷たい水が内側から冷やしていく。
「あと、30分位かなあ…すっかり遅くなっちゃったよ…」
街灯や町の明かりもさほどないこの地域は、夜盗が蔓延る事でも有名だった。
一息つき、先を急ごうと腰を上げた少女に迫る影が一つ、いや、二つ、三つ、四つ、五つ。
「おい」
ヒッ、と短い悲鳴をあげ、少女は影に向き直る。
夜盗か!?とも思ったが、懐中電灯を携えたその人影達は装甲服にヘルメット、防毒マスクと完全武装した兵隊だった。
確か…エノシマを仕切る"宗主"とかいう能力者の部隊だった様な…
そんな少女の思案をよそに、人影、声の感じからすると男だろうか――は言葉を続ける。
「お前『能力者』だな?」
「…は?」
そんな訳がない。一体自分の何処を見て『能力者』と断定しているのだろうか。
「いいや、『能力者』だ。『そうに決まっている』」
「…!!」
そこで少女は、男達のマスク越しの荒い息が聞こえた気がした。
…夜盗の方が、まだマシだったかもしれない。
「身体検査を行う。抵抗すれば、死ぬぞ?」
隊長だろうか、さっきから喋り続けていた男が警棒を携えて迫ってくる。
いやだ、いやだ、助けて。何で私がこんな目に。
お母さんを守らなくちゃいけないのに。生きていかなきゃいけないのに。
絶望に囚われている間にも男は迫ってくる。
「くく…お前みたいな若い女は久しぶりだ。たっぷり時間をかけて検査してやるからありがたく思え」
「イヤッ!イヤァッ!」
壁際に追い詰められ、もはや逃げ道はない。
男が迫ってきた。
ダメだ。助からない。助けて、誰か、お願い。
「助けて――!!」
男が少女の服へ手をかけた瞬間。
「待てぃッ!!」
凛とした女性の声が響いた。
腐っても軍隊、瞬時に携えた銃を構え周辺への警戒を始める男達。
「だ、誰だ。どこにいる!!」
「どこを見ている!わたくしはここだ!ここにいる!!」
少女を含めた六人は、近くに聳え立つビルの屋上付近を見やる。
今宵は満月。
その満月を背負った紅いドレスを纏う人影は腕を組んで男達を睨みつけ、祝詞を紡いでいく。
「袖擦りあうも他生の縁 赤の他人と笑わば笑え 誰かは絆とそれを呼ぶ!!」
言うと同時に紅いドレスを着た人影は屋上から跳躍。
その姿は正に翼に返り血を浴びて禍々しく、しかし神々しく輝く凶鳥(ヒュッケバイン)。
「イグニッションッ!!」
光を纏い舞い降りた凶鳥の右腕と両足には強大なる暴力、詠唱兵器が装着されていた。
肉食恐竜の顎を模した巨大なリボルバーガントレット『破裂骨折』。
赤と黒に彩られた殺戮のエアシューズ『轢殺女王』。
動力炉を高速回転させ、辺りの大気を振るわせる。
右腕を突き出すと同時に、開いていた竜の顎がガシィン!と閉じた。
「廃屋首魁、ピジョン・ブラッド。今この時を持って、貴様等の敵に回る!」
呆気に取られている男達と少女。
「下がっていなさいお嬢さん。あなたは生きたいのでしょう?」
少女はハッとした。
あのドレス、そしてあの髪は…
「あなたは、あの時の…」
「ふふ、また会いましたわね。二度会ったなら、我々は兄弟ですわ♪」
太陽のような笑顔で答えるピジョンと名乗る女性。
「お前等あっ!!」
存在を無視されていた男達は自らの存在を主張するかのように怒号を上げる。
「あら?空気を読めない人は晒されますわよ?」
「ううううるせえっ!派手な登場しやがって!各員、構えッ!」
右手を掲げる隊長らしき男。しかし反応はない。
怪訝に思った男が後ろを振り向くと、其処には打ちのめされボロボロになって伸びている部下4人がいた。
それを取り囲むように立っているのは回転動力炉のついた武器を携えた数十人の人、人、人。
「な…」
「これで、一対一ですわ♪」
「ひ、卑怯だぞ!数の暴力か!!」
自らを棚に上げて非難を浴びせる隊長。
対してピジョンはしれっと
「外道に通す仁義はありませんわ♪」
一瞬で論破され、言葉に詰まる隊長。
「くそがああああああああ!!!」
人質にでもするつもりなのだろうか、
やや離れた所で成り行きを見守っていた少女目掛けて飛び掛る隊長。
「悪行ポイント、追加ですわね」
しかし隊長の耳に響いたのは、死刑宣告にも等しい声だった。
唸りを上げる右手のガントレットが隊長の身体を宙高く打ち上げる。
更にそれを追いかけピジョンも地を蹴る。
中空で錐揉み回転をしながら何度も無防備な隊長へ廻し蹴りを見舞い、
前宙しながらの三日月を髣髴とさせる踵落としで地へと打ち下ろす。
土煙を上げて地面へ着弾する隊長。
地面には見事に人型に凹んだコンクリートに埋まって伸びている隊長がいた。
一瞬遅れてピジョンも着地、髪を掻き揚げ一言。
「――『15HIT グゥレイト!』といった所でしょうか?」
驚きで声が出ない少女。
能力者の戦いを見るのは初めてではなかったが、ここまで間近で見たことはなかった。
怖い、危ない、という気持ちもあった。
ただそれ以上に、その鮮やかな闘いを、美しいとさえ思った。
声が出ない少女の前に、イグニッションを解除したピジョン、そしてその部下と思われる男女数十人がピジョンの後ろに整列した。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はっ…はひ…」
思わず声が上擦ってしまった少女は、顔を赤らめて俯く。
そんな様子にピジョンは、優しげな微笑をたたえて軽く少女の頭を撫でた。
顔を上げた少女に、ピジョンは一歩下がり自信に満ち溢れた口調で『宣伝』とも取れる口上を述べる。
「無理を通して道理を蹴散らすのが我々『廃屋Pigion-Blood』。お呼びとあらば即参上!ですわ♪」
その口上を聞いて少女は思い出した。
彼女の二つ名とはまた違う別名を。
これが、これが―――鉄火姫(ウワサに聞こえたスゴイヤツ)!!
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
封鎖特区の片隅には、謎の義侠集団の噂があった。
名も知らぬ弱者を助け、
横暴を働く強者を叩く。
そんなステレオタイプの『ヒーロー』のような集団がこの荒廃した世界にいるというのだ。
曰く、真紅。
曰く、凶鳥。
では、ここでその義侠集団に遭遇したという少女の話をしよう。
その日、少女は病気の母親の為に薬を買いに町まで来ていた。
ショートカットの黒髪、帽子を目深に被り、ジャケットを重ね着、下はズボンと男装をしてはいるが、
思春期を向かえ膨らみ始めた両の胸と、その張りのある白い肌から滲み出る青い色香は隠しようがなかった。
町は、嫌いだった。
怖い人たちがたくさんいて、怖い事が、たくさんある。
でも、母親の為に自分がしっかりせねば。この世界を生きていかなくては。
少女は薬の入った紙袋を抱え、下卑びた笑いを浮かべる男達の視線に耐えながら俯き加減で町を歩く。
「あっ」
――トスン。
俯き加減で歩いていたのが悪かったのか、前から来た人影に少女は衝突し、抱えていた紙袋を取り落としてしまう。
「す、すみません!」
謝りながら、少女は慌てて散乱した紙袋の中身を詰め直していく。
あまりここで人と関わりたくはなかった。余計なトラブルに巻き込まれる元になる。
「いえいえ、こちらも前方不注意でしたわ。お気になさらず」
その凛とした声に少女が顔を上げると、其処には紅いドレスを纏った人物が散乱した薬を拾い集めていた。
その髪は金色。この薄暗い路地裏にあって尚、美しく光り輝いている。
「はい、これで全部ですわよね?」
思わず見惚れていた少女は、あ、はい!と素っ頓狂な声を上げて薬を受け取る。
それを見て金髪の女性はふふ、と微笑をこぼした。
「あの、ありがとうございました」
「この辺の一人歩きは危ないですわよ?どうぞお気をつけて」
では、と優雅にスカートを翻し金髪の女性は路地裏の闇の中に溶けていく。
紙袋を抱えたまましばし呆然と立ち尽くしていた少女は、母のことを思い出し、慌ててその場を後にした。
瓦礫を踏み越え、少女は家路につく。
少女の家、家といっても掘っ立て小屋の様なものであるが、ゴーストや能力者絡みのトラブルを避けるため、町からやや離れた所にある。
しかも道は舗装されておらず、車両の通行はほぼ不可能。
徒歩で行くには少々の距離があった。
半分ほどまで来ただろうか、辺りは黄昏時を経て夜の帳が下りていた。
コンクリートの破片に腰掛け、リュックの脇ポケットに差した金属製の水筒を取り出し蓋を開けると一口、二口と中の飲料水を喉へと流す。
火照った身体を魔法瓶の中の冷たい水が内側から冷やしていく。
「あと、30分位かなあ…すっかり遅くなっちゃったよ…」
街灯や町の明かりもさほどないこの地域は、夜盗が蔓延る事でも有名だった。
一息つき、先を急ごうと腰を上げた少女に迫る影が一つ、いや、二つ、三つ、四つ、五つ。
「おい」
ヒッ、と短い悲鳴をあげ、少女は影に向き直る。
夜盗か!?とも思ったが、懐中電灯を携えたその人影達は装甲服にヘルメット、防毒マスクと完全武装した兵隊だった。
確か…エノシマを仕切る"宗主"とかいう能力者の部隊だった様な…
そんな少女の思案をよそに、人影、声の感じからすると男だろうか――は言葉を続ける。
「お前『能力者』だな?」
「…は?」
そんな訳がない。一体自分の何処を見て『能力者』と断定しているのだろうか。
「いいや、『能力者』だ。『そうに決まっている』」
「…!!」
そこで少女は、男達のマスク越しの荒い息が聞こえた気がした。
…夜盗の方が、まだマシだったかもしれない。
「身体検査を行う。抵抗すれば、死ぬぞ?」
隊長だろうか、さっきから喋り続けていた男が警棒を携えて迫ってくる。
いやだ、いやだ、助けて。何で私がこんな目に。
お母さんを守らなくちゃいけないのに。生きていかなきゃいけないのに。
絶望に囚われている間にも男は迫ってくる。
「くく…お前みたいな若い女は久しぶりだ。たっぷり時間をかけて検査してやるからありがたく思え」
「イヤッ!イヤァッ!」
壁際に追い詰められ、もはや逃げ道はない。
男が迫ってきた。
ダメだ。助からない。助けて、誰か、お願い。
「助けて――!!」
男が少女の服へ手をかけた瞬間。
「待てぃッ!!」
凛とした女性の声が響いた。
腐っても軍隊、瞬時に携えた銃を構え周辺への警戒を始める男達。
「だ、誰だ。どこにいる!!」
「どこを見ている!わたくしはここだ!ここにいる!!」
少女を含めた六人は、近くに聳え立つビルの屋上付近を見やる。
今宵は満月。
その満月を背負った紅いドレスを纏う人影は腕を組んで男達を睨みつけ、祝詞を紡いでいく。
「袖擦りあうも他生の縁 赤の他人と笑わば笑え 誰かは絆とそれを呼ぶ!!」
言うと同時に紅いドレスを着た人影は屋上から跳躍。
その姿は正に翼に返り血を浴びて禍々しく、しかし神々しく輝く凶鳥(ヒュッケバイン)。
「イグニッションッ!!」
光を纏い舞い降りた凶鳥の右腕と両足には強大なる暴力、詠唱兵器が装着されていた。
肉食恐竜の顎を模した巨大なリボルバーガントレット『破裂骨折』。
赤と黒に彩られた殺戮のエアシューズ『轢殺女王』。
動力炉を高速回転させ、辺りの大気を振るわせる。
右腕を突き出すと同時に、開いていた竜の顎がガシィン!と閉じた。
「廃屋首魁、ピジョン・ブラッド。今この時を持って、貴様等の敵に回る!」
呆気に取られている男達と少女。
「下がっていなさいお嬢さん。あなたは生きたいのでしょう?」
少女はハッとした。
あのドレス、そしてあの髪は…
「あなたは、あの時の…」
「ふふ、また会いましたわね。二度会ったなら、我々は兄弟ですわ♪」
太陽のような笑顔で答えるピジョンと名乗る女性。
「お前等あっ!!」
存在を無視されていた男達は自らの存在を主張するかのように怒号を上げる。
「あら?空気を読めない人は晒されますわよ?」
「ううううるせえっ!派手な登場しやがって!各員、構えッ!」
右手を掲げる隊長らしき男。しかし反応はない。
怪訝に思った男が後ろを振り向くと、其処には打ちのめされボロボロになって伸びている部下4人がいた。
それを取り囲むように立っているのは回転動力炉のついた武器を携えた数十人の人、人、人。
「な…」
「これで、一対一ですわ♪」
「ひ、卑怯だぞ!数の暴力か!!」
自らを棚に上げて非難を浴びせる隊長。
対してピジョンはしれっと
「外道に通す仁義はありませんわ♪」
一瞬で論破され、言葉に詰まる隊長。
「くそがああああああああ!!!」
人質にでもするつもりなのだろうか、
やや離れた所で成り行きを見守っていた少女目掛けて飛び掛る隊長。
「悪行ポイント、追加ですわね」
しかし隊長の耳に響いたのは、死刑宣告にも等しい声だった。
唸りを上げる右手のガントレットが隊長の身体を宙高く打ち上げる。
更にそれを追いかけピジョンも地を蹴る。
中空で錐揉み回転をしながら何度も無防備な隊長へ廻し蹴りを見舞い、
前宙しながらの三日月を髣髴とさせる踵落としで地へと打ち下ろす。
土煙を上げて地面へ着弾する隊長。
地面には見事に人型に凹んだコンクリートに埋まって伸びている隊長がいた。
一瞬遅れてピジョンも着地、髪を掻き揚げ一言。
「――『15HIT グゥレイト!』といった所でしょうか?」
驚きで声が出ない少女。
能力者の戦いを見るのは初めてではなかったが、ここまで間近で見たことはなかった。
怖い、危ない、という気持ちもあった。
ただそれ以上に、その鮮やかな闘いを、美しいとさえ思った。
声が出ない少女の前に、イグニッションを解除したピジョン、そしてその部下と思われる男女数十人がピジョンの後ろに整列した。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はっ…はひ…」
思わず声が上擦ってしまった少女は、顔を赤らめて俯く。
そんな様子にピジョンは、優しげな微笑をたたえて軽く少女の頭を撫でた。
顔を上げた少女に、ピジョンは一歩下がり自信に満ち溢れた口調で『宣伝』とも取れる口上を述べる。
「無理を通して道理を蹴散らすのが我々『廃屋Pigion-Blood』。お呼びとあらば即参上!ですわ♪」
その口上を聞いて少女は思い出した。
彼女の二つ名とはまた違う別名を。
これが、これが―――鉄火姫(ウワサに聞こえたスゴイヤツ)!!
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