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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【If Another despair】 白の絨毯

【20XX年 封鎖特区 鎌倉】

始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。


廃墟と化した街を、重装備の兵隊が隊列を組んで進む。
ここで生きる者にはもう見慣れた光景である彼らは、【教団】の能力者狩り部隊――一般人で構成され、対能力者装備で身を固めた兵士達である。
能力者狩り部隊とは言うものの、彼らの目標は能力者に留まらない。無論、一般人も搾取と殺戮の対象だ。
「能力者の素質を持つ者も殺せ」……この命令を盾に、殺人を正当化する。
つまりは分け隔て無く死を振り撒く、殺人部隊だ。


「全体、止まれ。散開し、能力者を探せ……よし、行け」
隊列から数人の斥候が飛び出す。
斥候が建物の影へと進むのを見届けると、隊長と思しき男はヘルメットを外し溜息をついた。
「……今日のノルマは能力者5人。素質者なら10人だってのに」
段々と声を荒げていく。
「昼も過ぎたってのに人っ子一人見つからねぇと来た!クソッ!」
「隊長、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!一人も見つかりませんでした、なんて言ったら次に吹っ飛ぶのは俺達の首だぞ?」
ライフルを振り上げて怒鳴り散らす。
「隊長、エキサイト中申し訳ございません、無線連絡が入りました。アリスチームが能力者を見つけたそうです」
慌ててヘルメットを被り直す隊長。ヘルメット内に仕込まれた無線で連絡を取りつつ、彼らは動き始めた。


廃ビル屋上。
階段を駆け上り、錆び付いた扉を蹴り開けると、数人の隊員がこちらを振り向いた。

「隊長、こちらです」
「おう」
「どうしましょう?」
「いや、どうしろと言われてもだな」

銃で差した先。
モーラットを枕に寝転ぶ、タンクトップにホットパンツの女性。

「モーラットか。前時代の、しかも初期の使役ゴーストだ」
「余りの弱さに廃れていった……と聞いていましたが」
「ああ。だが、ここにモーラットがいる以上、この女は能力者なんだろうな。流石に普通のゴーストを枕にする豪気な一般人はいないだろう」
「……そうですね」
「……そうだよな」

余りにも珍しい状況に、言葉を失う一同。

「とりあえず、撃ちましょうか?」
「まあ待て。よく見ると結構いい女じゃねえか。まずは平和的に親睦を深めるべきだと思わないか」
「なるほど。最近日照りですからねぇ、捕まえてきた女性は宗主様が次々ブチ殺すし」

ヘルメットの下で下卑た笑みを浮かべる隊員達。
隊長が手を振ると、隊員達が一斉に銃を構えた。

「さて、起きて貰おうかお嬢さん。今の状況はお分かりかな?」

隊長が、銃口で軽く小突く。が、全く起きる気配を見せない。

「……おーい」

さらに小突く。

「一発くらい発砲して起こしましょうか」
「そうだな。当てるなよ?」

隊員の一人が、空に向けて発砲しようとしたその時――

「うるさいわね。こっちは寝てるのよ、日当たり悪いからそこをどいて貰える?」

女性は眉をしかめながら、ゆっくりと起き上がった。

「おいお前、今の状況が分かっ」
「はいはい。貴方達は教団の能力者狩り部隊で、私は能力者で、これから輪姦(まわ)されて殺される予定……といったところかしら?」

一同、絶句。

「あら、図星だったようね。それだけ大きな声で話してれば寝てたって聞こえるし、考える事なんてたかが知れてるもの」

(た、隊長!なんですかこの女の余裕は!)
(うろたえるな、危険人物データベースにはこの女は該当しない。少なくとも、Bランク以下の小物だ!俺達の装備には傷一つ付けられないはずだ)
(しかし隊長!どうしましょう!)

「……用心深いのね。【イグニッション】」
「!!」

隊員達が再び、一斉に銃口を向ける。
向けた先の女性は――先程とさほど変わらぬ姿。変わったと言えば、オレンジ色のベストが増えた程度か。
詠唱兵器も持たず、傍らにモーラットがちょこんと座っているだけ。
着ている服の防具としての質も低く、能力者としては最低レベルであることを示していた。

「さて」
ぱんぱん、と手を叩く女性。
「見逃してはくれないかしら」

一同、またもや絶句。

(隊長!もう嫌です!撃って終わりにしましょう!)
(まあ待てそう焦るな、どうせなら一発ヤってから――)

「ああもうまどろっこしいわね。平和的に行きましょう。遊んであげるから、見逃して?」
「お、おう。分かった」
「隊長――!?」

妖艶な笑みを浮かべる女性。

「そう、物分りが良くて助かったわ。それでは皆さん、後ろにご注目を」
「?」

隊員達が振り向く。そこで目にしたのは、屋上を埋め尽くす白の絨毯――モーラットの、大群。

「この子達はね」
楽しげに、言葉を続ける女性。その間にも、モーラットの数は増えていく。
「貴方達が殺してきた能力者の、元使役ゴーストよ」
次から次へと、無から有に。視界を、白いもこもこが埋め尽くす。
「勿論、一匹一匹の力は弱いけどね」
バチバチと、火花の散る音が響き始めた。

「ぜ、全員一斉射撃!撃てッ!」
ライフルから放たれる対能力者弾は、モーラットを次から次へと薙ぎ払う。
だが、薙ぎ払われた隙間にはまた別のモーラットが滑り込む。
そんな光景を見ながら、更に言葉を続けていく。

「ところで、理科の実験を思い出して貰えるかしら。乾電池と豆電球ね」
「撃て、撃て、撃てェーッ!」
「乾電池は直列に繋げるほど、大きな電力が得られるのよ」
「クソッ!次から次へと湧いてきやがる!」
「まあ、似たような原理だと思って貰えれば嬉しいわ」

周囲のモーラットを跳ね飛ばして、隊長が女性に向き直る。

「ええい、お前が死ねば使役ゴーストは――」
「話はきちんと聞いてたかしら?……直列回路はもう、完成してるわよ」

手を繋いだモーラットが、次々と火花を飛ばす。
火花は放電となり、雷光となって――隊員達を直撃した。


「……全く、もう」
黒く焼け焦げた隊員を蹴り飛ばすと、呻き声が聞こえてくる。
「そこで暫く、日向ぼっこでもしてなさい」
そう言うと、昇降口へと足を運び――途中で立ち止まる。
「そうだ。今日の事は、全て忘れて貰いましょう。やっちゃいなさい、モーラット」


隊員達は意識が混濁した状態のまま、二日後に別働隊によって発見された。
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