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【20XX年 封鎖特区 鎌倉】
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
―エノシマ・エリア西部爆破、十五分前。
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荒野であった。エノシマ・エリア抵抗勢力と"宗主"率いる教化部隊の交戦により、双方に山のような死体が折り重なっているはずのこの場所には『何も』存在していなかった。
何も無い荒野を歩む男。白き衣に白銀の戦槌、"宗主"。
当初の予定通り、"左利き"に対し戦略級地縛霊"レギオン"を投入し、これから迎えるであろう『結末』に向け、子飼いの兵隊と共に撤収するところであった。レギオンの移動コースを逆行するように歩んでいく暴君と奴隷達。何も無い荒野を歩む、死の軍団。
「……何だよ、これ」
親衛隊の一人が呟く。本来ならばこの場所には血と、それに塗れた『かつて人だった何か』と、それが装備していた対能力者装備という名のガラクタが転がって いるはずである。嗅ぎ慣れた嫌な匂いと、見慣れた悪夢の光景がそこにあるはずである。だが何もない。まるで初めからそこには何もなかったような、静か過ぎ る光景。
「"彼女"は昔から大喰らいでしてね。きっと久しぶりの食事で、張り切りすぎたのでしょう」
涼やかに"宗主"は言い放った。一般人としては相当に鍛え上げた体と、銀誓館以後の力無き第二世代能力者では立ち向かうことすら出来ぬはずの対能力者装備を、食ったのだという。あの、化け物が。頷けるが、たまらなく不快な気分になった。
「……それと、任務中の私語は感心しませんね。罰として死んで頂きましょうか」
静寂を切り裂く、オールドファッションな銃声。
無駄口のツケは、銃弾によって支払われた…呆気なく。
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「三時方向より敵襲!総員、迎撃体制を……ッ」
"宗主"は不意打ちを受け混乱する親衛隊長を制した。
「…このように、任務中に集中を切らすことは死に繋がります。あなたの部下によく言って聞かせておいて下さい。あなた方を育てるのもタダではありませんので、そうそうすぐに死なれても困ります」
降り注ぐ銃弾の雨。その元凶が見えぬまま闇雲に隊長の命に従い迎撃を行う親衛隊。一度引き金を引くたびにそれは自らの死となって返ってくる。取引相手の居ない等価交換。気がつけば、残ったのは隊長と"宗主"のみとなった。
「さて、もう十分でしょう。一般人の兵隊を何人殺しても意味が無い。そして貴方もそれが目的ではない。時間はあまりありません、相手をしますから出てきなさい」
次々と死体を作っていく黒い影は、ゆっくりと隊長に向け何かを振り下ろした。刹那、落ちていく、首。先程までの抵抗勢力との戦闘により三分の一まで減少していた兵力は、これによりゼロとなった。
「少しハ庇っテあげるヨロシ。……こんな腐れ外道共でも部下だろうが」
立ち塞がるは"亡霊(ゲシュペンスト)"。
"青の偶像"を守る、影の守護者。
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"宗主"は転がっている親衛隊員の死体から煙草とライターを取り出し、火を付けた。
「先程も申し上げたとおり、時間がありません。手短に済ませましょう」
右手の手斧と、左手のモーゼル……"宗主"の親衛隊員を一人残らず葬った……をぶらつかせ、へらりと笑う"亡霊"。
「煙草吸うんだねえ。てっきり嫌いだとばかり」
「それ以上に私は無駄話と三文芝居が嫌いです。特に用件が無いなら直ぐに殺しますけれど」
へらり、へらり。"亡霊"は哂う。
「……あんたは。あの子の敵だ。あの子の愛する『未来』の敵だ。あの子が守ろうとする『現在』の敵だ。あの子が見てきた『過去』の敵だ」
煙草の火は既に半分を灰に変えている。
「文殊菩薩(マンジュシュリー)。俺の、文殊菩薩(マンジュシュリー)。皆の、文殊菩薩(マンジュシュリー)。それを守る為なら、何だってやれる」
"宗主"の右手から戦槌が消えた。
「"宗主"。お前の首、貰い受ける」