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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】お前のビームで悪を撃て!―後編―

―半年後
戦闘、その他の理由により、
『再起不能』と判断された能力者が強制収容される病院の一室。
必要最低限の家具しかないその部屋は、冷え冷えとするほどに殺風景だった。

べッドの上で毛布にくるまったイドラは、
ぼんやりと部屋の壁にできたシミを眺めている。

「探しましたわ、イドラさん」
鉄格子のカギをあけ、入ってきたのは金髪の女性。
褐色の肌が、不思議と真紅のドレスにあっていた。
「…。ピジョン…さん」
「やつれましたわね…」
やさしく、しかし悲しそうに微笑むピジョン・ブラッド。
なんだか申し訳ない気持ちになり、思わず俯くイドラ。
「チなみに。僕もいますヨ、イドラ小姐?」
「張先生…」
ピジョンの背から唐突に現れたのは、満面の笑みを浮かべた張・潤風。
昔と変わらず、スーツに奇天烈な模様のネクタイとシャツをあわせていた。

廃屋の、銀誓館学園の、懐かしい思い出が一気にあふれ出す。
それが何だか無性に悲しくて。
「ピジョンさん…張先生…。わたし…わたし…」
ぼろぼろと涙がこぼれて止まらない。
「わたし…イグニッションカード…。起動できなくなっちゃったよ…」

長い長い沈黙。

「そうですか…」
それだけ言うと、ピジョンはイドラを抱き寄せてそっと頭をなでた。
いよいよ赤子のように声を上げて泣き出す少女。
「…」
張は、この光景をずっと見ていた。
握り締めた拳が義憤で震える。
ほの暗い心の奥底に、青い炎の火種が生れ落ちる。
(「なんで…。なんでこんな幼い子が、こんないい子が、こんなひどい目に遭うんだ…」)
火種が声をあげる。戦え、戦えと。
この子の為に、この子への想いの為に、理不尽と戦えと。
張は誰にも言う事なく、この時静かに腹をくくった。


「っ…っ…っ…。ごめんなさいっ…わ、わたし…」
「こういう時に、泣くことは恥ではありませんわ」
数分後、ようやく落ち着いたイドラは赤く目を腫らしながら、涙を拭った。
ピジョンはこのタイミングを待っていたのか、張に目配せをする。
「はい…。ここニ」
置いてあったカバンから取り出したのは。
「…!!」
イグニッションカードと、壊れかかった携帯電話。
「これ…は…」
「差し出がましいとは思ったのですが…。探しておきました」
「おねえちゃん…は?」
「…。遺骨はご実家に」
「…そう…ですか」
カードを大切に握りしめ、俯くイドラ。
わからない。わからなかった。自分がどうすればいいのか。

「…その携帯。映像メモが残っていますわ」
「え…?」
驚いて液晶パネルを見る。確かに、それを示すアイコンが点滅している。
「多分…お姉さんの残した最後のメッセージ…。
イドラさん、あなたが、一番最初に見てあげるべきものですわよ?」
ピジョン、張の方を見る。二人は静かに微笑みながら、頷いた。
震える指で携帯を開け、ボタンを押す。

―映像メモを再生しますか?

―はい

ノイズ混じりに再生が始まる。
液晶の中で、瓦礫にもたれかかった血だらけの比留間・イドが微笑んでいた。
「…イド…ラ。敵は全て…倒しま…した。
追撃の心配は、な…と思います…」
「おねえちゃん…。すごいや、あの数を…!」
「すぐにでも…そちら…追いつきたいのですが…、
どうやらそ…れも無理そうです…。もう、心臓…止まっているんですよ、私…」
「そん…な…」
頭の中が真っ白になる。それだというのに。それだというのに。
「だか…らイドラ…。あなたに…後を託します」
「無理だよ!」
姉は全ての母の母であるかのような微笑みを崩さない。
「わたしじゃ無理だよ、おねえちゃん!
もうわたし、カードの起動もできなくなっちゃったんだよ…っ!」
「大丈夫、あなたなら出来る」
「無理だよ、おねえちゃん…できないよっ! わたしにはできないよ!!」
「何故ならば…っ!」
イドの青い瞳が、画面越しにイドラの視線を捉える。
それはまるで、聖火が受け継がれていくような希望のリレー。
「あなたは、私の自慢の妹だからです…!!」
「おねえ…ちゃん…」
「がんば…れ、イドラ…。絶対に…負ける…な!」
敬礼する比留間・イド。

「イドラ。お前のビームで…悪を撃てッ!」

イドの右手は、なくなっていた。
「りょ…りょう…かい…!!」
大粒の涙をこぼしながら敬礼を返すイドラ。

そして唐突に揺らぐ画面。

「おねえちゃん…!? おねえちゃんッッ!!」
途切れる映像。
「おねえちゃんッッ!!!」
声はもう、届かない。
イドラの泣き声だけが響く病室。そんな中。


唐突に、警報が鳴り響いた。
「「「ッ!!?」」」


「何でコウ、『教団』の連中は…空気読めないんですカねッ!!?」
詠唱銃から放たれた弾丸が、対能力者武装をした教団の兵士たちを撃ち抜く。
「ふふ、ルンルン。
言葉の割には…いつになく熱くなっていませんこ…とッ!?」
舞踏のような回し蹴りで敵をなぎ倒すピジョン。
互いに背中合わせになるように立ち回り、一切つけいる隙を相手に与えない。
「ソウデスか、ネ…?」
「そうですわよ。ふふ…女の勘を甘く見ない方がよろしくてよ?」
この人は絶対意地の悪い笑みを浮かべているに違いないと思いながら、張は肩をすくめた。
「どうサレます、首魁? 相手ノ数が多い、これは限定解除しないと…」
「その必要はありませんわ」
優雅に髪をたくし上げ、ピジョンは背筋をぴんと伸ばして構えなおす。
「風が吹けば、この戦いは我らの勝ちですもの」
「『風』…?」
「ええ、わたくし、さっきからそれを待っているんですけど…。ああ…」
何かに気がついたピジョンが視線を上げる。つられて張もそちらの方角を見る。それは。
「小姐ッ!!?」
建物の屋上に、病院服一つで立つイドラの姿があった。宙はどこか泳いでいて、とても大丈夫なように見えない。
「ふふ…ルンルン。あなたは幸運ですわ」
「はい…?」
思わず振り向く張。ピジョンは、彼の予想通りどこか楽しそうな、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「滅多に見られるものではなくてよ? 『女が化ける』その瞬間なんて…」
「…」
「見ていなさい。あの子…化けますわ」


「…わかったよ。おねえちゃん」
空を見る。雲の隙間から、太陽が差し込んでいた。
懐かしい光だった。それが何だかおかしくて、小さく笑う。
「おねえちゃんの気持ちは、絶対に間違ってなんかいない…。
だから…」
姉のイグニッションカードをゆっくりと天にかざす。
カードに刻まれたスペル、『LastHope Id』という文字列が、青い炎となって崩れ落ちる。
「わたし、やってみるよ…!」
イドラは微笑んで、新しい名前をカードに封じ込めた。

―Second"Blue" Idola

「いくぞ…、悪党どもッッ!!!」
―イグニッション
イドラは天高く跳躍すると、一気に大地へと落下した。
「ッ!!?」
舞い上がる砂煙。度肝を抜かれる『教団』の兵たち。

「おねえちゃんは死んだ! もういないッッ!!」
砂煙の中から現れたのは、
仁王立ちして肉食獣のような気迫で声を上げる少女。

「だけど! わたしの背中に…この胸に! 一つになって、生き続ける!」
高速回転する動力炉。炎のようにはためく真紅の布槍。

20070830114109.jpg

少女が真っ直ぐに天を指す。
その体はいつもより数倍も大きく見えた。
「正道進むは天上天下の民のため!!」
ぴっかぴかにクリーングされた黄色いジャンパー。

「艱難辛苦のぞむところ!」
気合で輝く白ぶち眼鏡。

「耐えきったなら…わたしの勝ちだぁぁぁぁッ!!!」
一閃。竜巻のように敵をなぎ倒す。

一斉に崩れる敵の陣形。
味方の能力者たちは自分らがおとぎ話を見ているのだと思った。

「ひっさぁぁぁぁぁつつッ…!!!」
イドラの両腕で火花が弾け飛ぶ。収束するエネルギーの嵐。
「おおおぉぉ!?」
「あの技は…ッ!!」
思い出を全て力に変換し、牙を剥いて笑う少女。
全ターゲット捕捉完了。

「龍撃砲(バスタァァァ…ビイィィィ―――ム)ッッッッ!!!」
何もかもをなぎ倒し、比留間・イドラは姉の勇気を相続した。


「ほら、化けましたわ♪」
あいた口が塞がらない張の横で、
ピジョン・ブラッドは勝ち誇ったように微笑んだ。
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