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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】お前のビームで悪を撃て!―前編―

【20XX年 封鎖特区 鎌倉】

始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。

―?年前

灰色の雲がぎっしりと空を覆い、黒い銀の混じった雨が降り続けている。
断続的に響く爆発音と銃声。悲鳴。

「比留間さん、もう無理です!! 撤退しましょう!」
「あきらめるなッ!! 
私たちが退いたら、この病院はどうなるッッ!!!」
鎌倉C総合病院救出部隊隊長、比留間・イドは弱気になった部下に張り手で闘魂精神を注入する。
「でも、あいつ等には詠唱兵器が効いてません…ッ!」
「気合を入れて真っ直ぐ攻撃すれば! 効かない攻撃などない!
見ていろッッ!!」
塹壕から比留間はワンステップで飛び出し、一気に最大速度まで加速した。
飛んできた銃弾の雨を横っ飛びで交わし、牙をむいて笑う。
「…ッ!!」
「くらえええええええええぇぇぇぇッッッ!!!!」
敵戦線に突撃、赤い布槍をまとった拳が、対能力者装備で全身を保護されているはずの兵士を誇張抜きで空へとぶっ飛ばす。
「…! 撃てッッ!!!」
だが、突撃をくらったにもかかわらず敵の兵士たちは
誰一人動じることなく、冷静に後退しながら比留間に標準をあわせる。
明らかに訓練された『軍兵』の動きであった。
あとは引き金を引けば、比留間・イドは倒れるはず…だった。

「おねえちゃんっ!!」
戦場を駆ける音速の衝撃波。
黒ずくめの兵士たちが耳を押さえ、その場に崩れ落ちる。
「よくやったイドラッ!!」
イドは言いながら天に跳躍する。両腕でスパークするエネルギーの光。
「龍撃砲(バスタァァァ…ビイィィィ―――ム)ッッッッ!!!」


未だ勝利の歓声やまぬ戦場。比留間の姉妹は背を合わせるようにして立っている。
「やっぱりおねえちゃんは凄いやっ…!」
振り返って目を輝かせる妹に、姉はくすぐったそうに微笑む。
「隊長ー! 一般の負傷者、及び医療スタッフの護送準備完了しました!」
「わかった、すぐに行く!
…さあ、イドラ。先に行って待っていて」
「…。おねえちゃんは?」
「私は…あの兵士たちを埋葬してから追いつきます」
そういって、比留間・イドは自分達が倒した謎の兵士達の方に顔を向ける。
驚いて姉の方を見上げるイドラ。
風にたなびく姉の姿は、どこか寂しそうだった。
「…優しいんだね。おねえちゃんは」
「こんなご時世でも…いや、こんな時代だからこそ。
私は死者への敬意を忘れたくない…。それだけよ」
「うん…じゃない、はい。じゃあわたし、先に行ってまってるですっ」
手を振りながら駆け出すイドラを、微笑みながら見送る姉。
しばらくはそのままだったが、すぐに表情を引き締めて埋葬にかかる。
が、目的は他にもあった。
「一体、この者たちは何だったのだろうか…」
倒れた兵士の一人に近づき、何か手がかりはないかと懐を探るイド。

それが、命取り。

―ザク

「…っあ…?」
気がついたときには遅かった。
「ルネッサンス全工程終了…。戦闘を再開」
何故、確認しなかったのか。
「了解。戦闘を再開…」
何故、こいつらが『本当に死んだのかどうか』を先に確認しなかったのか。
「敵護送車を確認。最優先で撃破せよ」
だから完全に不意をつかれた。
「了解」
気がついたときには、比留間の胸を黒剣が貫いていた。


イドラがその異変に気がついたのは、護送車で待つ味方の表情が一変した時である。
「おねえちゃんは後から来…。どうしたの?」
「あ…あ…」
味方の能力者は、口を魚のように動かし、宙を指差すだけ。
「…? あっち? あっちがどうかし…た…」


「しっ…まっ…!!!」
「撃破成功」
ず、と抜かれる黒剣。噴水のように傷口から血液が飛び出す。
比留間の脳髄に激痛が走った後、視界が真っ赤になった。
「おねええちゃあああああああぁぁぁぁんんッッッ!!!」
妹が、叫んでいる。まずい、こっちに来させるわけには行かない。
「早く車をだせえええぇぇぇぇッッッ!!!!!」
肺腑をふり絞り、ありったけの声量で血を吐きながら叫ぶ。
「隊長ォォォ―――――ッッッ!!」
「車を出せぇぇぇぇ!!! ここは私が食い止めるッッ!!!」
自分を刺した兵士を殴り倒し、胸を貫かれたはずの比留間・イドが立ち上がる。
「気づかれた。全速駆け足」
「了解。全速駆け足」
黒ずくめの兵士たちは、無機質な無線通信の声で一斉に駆け出した。
「させるかぁぁぁぁッッッ!!!」
兵士をなぎ倒す龍撃砲。辺りを砂煙が包む。

「ち、畜生!! 畜生ッッ!!!」
「早くいけぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
姿の見えぬ隊長の叫びが空に吸いこまれる。隊員は己の唇を噛み切ると、腹を据えてイドラを車に引き寄せた。
「イドラちゃん、こっちだ!!」
「いやだぁぁぁぁ!! 離して! 離してぇぇぇッッ!!!」
すさまじい勢いで抵抗するイドラ。なんて力だと思いながら、断腸の思いで無理やり車に詰め込む。
「お前等も手伝ってくれ、早くッッ!!」
「死んじゃう!! 死んじゃうよ!! おねえちゃんが死んじゃうよぉぉぉぉぉッッ!!!」
「イドラちゃん! 落ち着いて!!」
「おねえちゃんが死んじゃう!! おねえちゃんが死んじゃうッッッ!!!」
「エンジン急いで!!」
「もうやってる!!」
「おねえちゃんが死んじゃうよ!! おねえちゃんが死んじゃうよぉぉぉ!!」
とりつかれたかのように、『おねえちゃんが死んじゃう』と絶叫するイドラ。
あまりの悲痛な声に、思わず目を伏せる者もいる。
許されるなら、隊員の誰もが泣き叫びたかった。


「…よ…し」
去っていく車に、満足げに微笑むイド。
振り返れば、黒ずくめの兵士達は全員が彼女に銃口と剣先を向けていた。
心なしか、自分達は絶対に勝てると余裕をしたためているようにも見える。
―だからどうした。
一歩前に出る。兵士達は思わず後退する。
―だからどうした。
青い太陽のような瞳が燦然と輝く。
―その数、その装備、この状況。たかがその程度で。
胸に手を当てれば、既に自分の心臓は停止していた。
―比留間・イドを倒せると思っているのかッ!!

大地に仁王立ちした比留間・イドは、
血だらけの死に体で笑いながら朗々と謡いだした。

「遠からん者は音に聞けぇ! 近くばよって目にも見よ!」
再度高速回転をはじめる動力炉。もってくれ、これが最後だ。

「私の名前は比留間・イド!!
銀の雨に身を打たれ、この国を憂う一人の学兵!」
血だらけの黄色いジャンパー。今まで守ってくれてありがとう。

「その通り! 誉れ高き能力者の一人にして!
良き仲間に恵まれし一人の女丈夫!!」
レンズが煌く白ぶち眼鏡。あの人に返したかったな。

「我が力はゆるぎなき友情! ゆるぎなき大義! その人生は最良なり!!」
父さん、母さん。イドラ。
この私の一世一代の晴れ姿、遠くから見ていてください。

「これより先が地獄だと! わかって来るならそれも良し!」
かつての仲間達の笑顔がフラッシュバックする。どうか幸せに。妹をよろしく。

「聞いてないならそこを退けぇぇぇぇッッ!」
兵士達の群れに、比留間は単騎で突撃した。
覚 悟 完 了
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