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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】道化と人形その2

「……龍撃砲」
胸元で放たれた衝撃波の勢いで僕は廃ビルの壁を叩き壊し、ビルの中に転がり込んだ。

「がぁ…はっ……」
胸に叩き込まれた衝撃と背中強打したことで一時的に呼吸が止まり……目の前が暗くなった。

----------------------------

目の前の白い紙を手に取り、何かを書き込む。
おそらくは何かの願い事だろう……それだけは分かっていた。
しかし、何故か書いた文字はぼやけていて見ることはできず、
その内容を確認することは出来なかった。

だけど……この願い事はとても大事なもの

「それは……やさしい願いですね」

背後から女性の声が聞こえ振り返ると、眩い光が目に入った

----------------------------

……目が覚めると右頬に固い感触がした。
約90度反転した視界から、自分が建物の中で横たわっていることに気付く。
そして、右手に添えられている白く細い手にも……

「……やあ、また会ったな」

手を辿った先にはいつも出会う長い髪の女がいた。
彼女は今にも泣き出しそうな顔で僕の手を握り……そして建物の一角を指差す。

「逃げろって言うことか……やだね」

彼女の意図を理解すると、立ち上がり手を振り払う。

「ここで逃げれば確かに命は助かる……だけど、失ったものを得るチャンスは遠ざかる」

そうなるとさっきの夢の内容も声の主もわからない
それは……嫌だ。

「それに誰かが言っていた……後ろに戻ったって、前進は出来ない。だから――」

――僕は前に進む!

まだ痛む身体に鞭打って、さっき自分が入ってきた穴から外に出た。

----------------------------

「……待たせたね、セニョリータ」
自分が開けた穴の縁に手をかけ、今にも帰ろうとしている道化の女に声をかける。

「……別に、今帰ろうとするところよ」
「まあ、そう連れないこと言わないで……ご希望に答えますから」
そう言って服のポケットから一枚のカードを取り出す。
それを見て彼女の口の端がつり上がる。

「ふぅん……じゃあちょっとだけ遊んであげる」
「サンキュー……ではもう少しお付き合い願おうか!」

軽口一つ叩き、カードを持った右手突き出すと、その言葉を口にする。

「起動(イグニッション)!」

起動の言葉とともに周囲に旋風が吹き、風に乗った詠唱銀が、武器にそして防具になる。

ノースリーブのボディアーマー、白の道着に黒帯を巻き、腰にはグルカナイフ、右腕には細身の刀身が折りたたまさって付

けられたガントレット、そして……顔を覆う覆面――

「さて、やります……かぁ!?」
呟き、構えた時には彼女は空を舞い、その右の掌底をこちらに叩きこもうとした。

「くっ!」
それを両手で受け止めるが、その重さ故に足が地面に沈み込むのを感じる。

「っていうか速いんだよ!始めるの!」
いきなりの攻撃を非難しつつ、次の攻撃が来る前にその手首を掴み、投げ飛ばす。
そして着地地点を予測すると、そのあたりに漆黒の手を放つ。

「しゃらくさい!」
彼女は手刀一閃、ダークハンドを切り裂き、音も無く着地してこちらに向き直る。

「今のはフェイント!」
しかし、その頃には僕は彼女との間合いを詰めており
「そしてこっちが本番!」
懐にもぐりこんでアッパーを狙う

「こ…のぉ!」
こっちの意図に気付き両手でこちらの拳を受け止めようとするが、一寸早くアッパーが顎に入る。
そしてそのまま膂力を持って一気に振り上げた。

廃ビルめがけて飛んでいく彼女を確認すると、僕はさらに跳びあがり追撃する姿勢に移る。
案の定、彼女は身体を上手く反転させてビルの壁を蹴りこちらに向かってきた。

空中で対峙する僕と道化師
ほぼ同時に繰り出された飛び蹴りは二人の靴底を合わせるように激突した。

「せぇりゃあ!」

蹴り足に伝わる衝撃に耐えつつ、もう一つの足で相手の頭部を狙って回し蹴りを撃つ。

「甘い!」

しかしこれも相手の回し蹴りと相打ちになる。

「ならば……ぉうっあ!」

さらに蹴りを見舞おうと体勢を入れ替えた瞬間、彼女の掌底が僕の顔面に入った。
彼女はそのまま掌をねじ込み、こちらの身体を地面に叩きつけるように押し込んだ。

「……ぐっ」

どうにか受身はとったものの、顔に入ったダメージは残ったまま。
歯も一本折れている。

痛みに耐えつつも口の中の異物を舌で転がしながら、身体を起こす。
視線の先には先に着地した彼女がゆっくりとこちらに歩を進めていた。

「なかなかやるけどそろそろお仕舞いね……記憶を失ったと思い込んでいる哀れな『お人形さん』」
そう言うと彼女は右腕を後ろに引く

……?

「ちょっとは楽しませてくれた礼に……」
一瞬、身を屈めると全身のバネを使って一気に間合いを詰める道化師

……今、なんて言った?

「この手で救済つかまつる!」
そして右腕を鞭のようにしならせて、こちらの腹部めがけて掌底を叩き込もうとする
彼女の右腕が切る大気の音と掌から来るプレッシャーが僕を思索の世界から引きずり戻した。

気付くのに遅れた
避けられない……ならば!

「――ブッ!」
道化師の顔面めがけて、折れた奥歯を勢いよく吐きかけた。
一瞬だけ生まれた隙。
そのチャンスを生かし、ステップバックで掌底をかわすと三日月の軌跡を描く回し蹴りを相手の頭部に叩き込んだ。
スナップを効かせた蹴りを受け、膝を折る道化師。

「おのれ……小細工をォ!」

そう言って立ち上がろうとする彼女。しかし僕の打ち込んだ蹴りは確実に彼女の脳を揺らし、立ち上がることを許さない。

「今……なんて言った」

それでも立ち上がろうとする彼女に対し、警戒を解かずに問う。

「『記憶を失ったと思い込んでいる』……どういうことだ!?」

段々と問う声が大きくなる。

「説明しろ!」

答えが返ってこないことに苛立ち、彼女の胸倉を掴み、問い詰めた。

「……オオフナ・エリア、B-17」
「……え?」

彼女の言葉を聞き返そうとした時、胸倉を掴んでいた手を切られ引っ張られる。
そちらに意識がいった瞬間、顎先を掌底で打ち抜かれた。

「――馬鹿ねぇ気を抜くなんて」

一撃を受け動けなくなった僕の頭を踏みつける彼女。

「でも、ちょっとは楽しめたわ……だからさっき言ったのはご褒美。その場所にある研究所にアナタの記憶に関するヒント

があるから行ってらっしゃい」

頭を踏みつけたまま、耳元に顔を寄せ言葉を続ける。

「でも……その前に野たれ死んでるでしょうけど。この程度だったら」

冷笑を浴びせた後、踏んでいた足を離し……

「じゃあね」

僕の頭部を蹴り上げた――

----------------------------

「痛てて……思いっきり、蹴りやがったな」

まだ痛みのある頭を抑えながら立ち上がる。
幸いにも意識を失っている間には何も無かったようだ。

ほとんど彼女の掌で遊ばれた戦いだったが、僅かながら手がかりは貰った。

例え罠だとしても……行ってみよう。
そこに僕が生きていた証があるのなら。

「……そんな顔すんなよ」

心配そうな顔で見つめる長い髪の女に対し、僕は軽く笑みを浮かべて答えてみた。
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