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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】黒き世界白き庭園
(1) (2)

【20XX年 封鎖特区 鎌倉】

そこは始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
数年前政府により戒厳令が布かれ、完全に外界との接触を絶つ為に封鎖特区として指定、厳重な監視の下で彼らはそこで生活している。

封鎖特区外でのゴースト事件などには政府直轄の能力者集団、若しくは封鎖特区から傭兵のような扱いで現地へ赴く。
しかし中には『能力者狩り』の様な事を食い扶持にしている能力者もおり、封鎖特区内の能力者の評判はすこぶる悪い。

力無き者は朽ち、力ある者のみが生き残る。
それが封鎖特区の単純明快にして唯一絶対のルール。

今日もどこかで、力無き者の果てる音が聞こえる。






そして、この物語の最初を飾るのは此処
【20XX年 エリア・カナザワ】




周りを巨大な、しかし美しい造形の鉄柵で囲まれた巨大な洋館。

ここはかつて様々な能力者が集まり、笑い、泣き、共に戦い、勉学に励み、愛を育んだ場所。
だが、今此処に能力者たちの楽しそうな笑い声も勉強する時のうなり声も、何も聞こえない。



今の時代では珍しくなってしまった花が其処には満ち溢れていた。
それはさながらエデンの園のような美しさを持ち、その中心の噴水に子供たちは居た。
子供たちの中心にいる少女…いや、女性なのだろうか。背丈はそこまで高くなく体格もあまりがっしりとはしていないがどこか神秘的なその空気は人の持つものとどこか離れていた。
黒いローブのような服に身を包み、黒い手袋をした手で本のページを捲っていく。
その女性は子供たちに御伽噺を聞かせていたようで、子供たちは女性の言葉に一言一言に緊張した顔や、驚いた顔、嬉しそうな顔をしている。


「…そして、お姫様を救い出した王子様はお姫様と結婚し、幸せに暮らしました。おしまい。」


黒服の女性がそう締めくくり、本を閉じると子供たちは今までの静寂が嘘のように騒ぎ出す。
そんな子供たちを微笑みながら見つめる女性。
だが、そんな光景に似つかわしくない兵士の姿が向こうに見えた。
子供たちも兵士に気がついたようで少し不安な表情をする。
兵士が走ってくると、女性の前で跪き手を左胸に当てる。


「教主様、政府の偵察兵を捕まえました。」


兵士の言葉に教主と呼ばれた女性は静かに立ち上がる。
不安な表情をしている子供たちの頭を優しく撫ぜると「またお話をしてあげますからね。」というと言うと黒のヴェールを被り、離れた場所にいた兵士達と共に歩き出す。









洋館の地下にある巨大で薄暗い迷路。
教主は明かりを持った兵士達と共に迷わずまっすぐに進んでいく。
しばらく歩いていると、その一角に牢屋のような部屋があり、ボロボロの男が両手両足を縛られていた。
教主は先程と同じように微笑みながら男に近づき、牢の一歩手前で止まる。


「あなたが此処の偵察兵ですね?」


微笑ながらそう問われた男は無言だった。


「教主様、この男何をやっても口を開きませんでした。やっと、偵察だとだけ言ったのですが…申し訳ありません。」
「構いませんよ。あなた方に非があったわけではありません。良く、偵察兵だと言わせました。良くやりましたね。」


教主の言葉に兵士たちは感極まったような顔を見せると「ありがたいお言葉です!」と跪く。
その様子に微笑を崩さず少し首を傾げた教主は檻の中に入ると兵士に命令し、男の姿が見えるように牢屋の明かりをつけた。


「顔を上げなさい。」


たった一言。そのたった一言だったが偵察兵は体の震えが止まらない事に気がついた。
その言葉はまるで神の一言のように聞こえ、男の体が勝手に動き痛む体に顔を歪めながら教主に顔を向けた。


「あなたはどこの存在ですか?なぜ此処に来たのです?」
「ぁ…お、俺は…せ、政府の偵察兵…です…。教主の情報を…集めろと言われて…」


ガタガタと体を震わせながら教主に告げていく。男は今、神か冥王神と対峙している気分だった。
男の口は男の意思に反して勝手に情報を引き出していく。
ただ、心が叫んでいた。
この女に逆らったら死ぬ。言うとおりに話せと。
情報を一通り目を閉じ聞く教主。その情報を聞き終わるとゆっくりと目を開きねぎらいの言葉をかけた。


「そうですか、貴重な情報をありがとうございました。」
「あ…ぁ…」


教主の優しい微笑みに男は心の底から安堵した。これで見逃してもらえると…。
今までのこの男の知能なら分かっていた。情報を漏らしたものの末路を…だが集めた情報によると、この宗教集団のトップに居るこの女性は以前、まだ学園が あった頃は慈悲深く敵にも慈悲の心を忘れない存在だったらしい。そして、何より此処はその学園があった頃の教主…月宮・ヒカルが管理していた寮だったらし い。ならば此処に連れてこられた自分は慈悲で見逃してもらえるのではないかと思ったのだ。


…だが…



「本当にありがとうございました。では、さようなら。」



その言葉を聴き終わったその瞬間、男の人生は終わった。
男の人生最後に見た光景はこの世の存在とは思えないほど恐ろしく、何も感じない『無』の表情だった。



「それで、エリア・イソゴの政府特殊部隊との交戦状況はどうなっているのですか?」
「はい、こちらが押していましたが向こうの能力者投入によって戦局は互角となっております。それに教主様喪失(ロスト)がエリア・ホドガヤ近辺に現れているようでして…。」
「……ロストが?」
「はい、ですから出来る限り早く鎮静したいのですが…。如何致しますか?」
「ふむ、ならば私が出ましょうか」


教主の言葉に唖然とする兵士。
だが、すぐに姿勢を正すと敬礼し「現地の者たちに伝えてまいります!」と走り出した。


「ですが教主様、よろしいのですか?ロスト到着までに政府部隊を殲滅、もしくは追い出せなければ教主様が危険です。」


そう、とても危険な行為だ。
喪失(ロスト)は歩く災厄と呼ばれる存在。
歩いた場所は全て奪いつくされ、生命が何も残らない。
奴を知るものはたとえどんな報酬があろうとも近づきたがらない存在なのだ。


「私には切り札があります。」
「切り札…ですか?」


兵士の不思議そうな表情に微笑を浮かべる。
ただ、その瞳は子供たちに向けた微笑みとは比べ物にならないくらい空虚で冷たい瞳をしていた。


「まぁ、切り札がなくとも足止めくらいならばできますけどね。…一番良いのはロストが訪れる前に政府の軍勢を皆殺しにし、エリア・ホドガヤから撤退するべきです。あなたがたの能力にも期待していますからね?」
「はっ!最善を尽くします!!」
「さて、お話はこの位にして行きましょうか。時も世界も待ってはくれませんから。」


教主がそう言い歩き出すと兵士たちもその後に続く。
暗き時代は、まだ始まったばかりだった。
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