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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】"Fallen Right and Will comes Night"

【Age,20XX KAMAKURA】

始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
惨劇が、悲鳴が、絶望が、そして殺し合いが日常化した、現世における地獄である。

世界結界崩壊。能力者の蜂起。来訪者との無際限の殺戮。さらにゴーストの氾濫。この短期間に一体何回戦争規模の人命動員が行われただろう。
そしてそれはあらゆる場所で行われた。
政府による厳戒令は発令されたが、当然人死にが絶える事は無い。
軍、能力者、来訪者、巻き込まれた一般人。彼らの血を吸っていないエリアは無かった。彼らの骸を一度も抱いた事の無い場所は無かった。

―『サイレントゾーン』と呼ばれる、ある一角以外は。

「こちら『アルファ』。哨戒任務継続中。これより――エリアに入る。…ん?」

突然の電波障害。先ほどより感度は徐々に落ちていったので、恐らく電磁波が混線する所なのだろうと言う推測を立て、『アルファ』チームは先に進む。
刺客、と言うより斥候の類である。鎌倉地区をかなり制圧している"教団"の尖兵が、何の変哲も無い所を探索している。
昔はちょっとした飲食店が並ぶ小さな繁華通りだったのであろう事が伺えるが、それ以上、例えば有名な戦場跡だとかの形跡は無い。
そう、ここには何の戦略的価値も無い。"ただの通過点であり、取り立てる所も何も無い土地"である。


リーダーは暫くして、数名の行方不明者がいる事に気付いた。余りにも順調なのでその認識すら遅れてしまった。

―通信が遮断された上に散開し過ぎて見失った?…否…見失うほど広大なエリアではない。

―広大なエリアではない…なのに、何故我々は先ほどから"ずっとここにいる。"

―ずっと歩いてたんだぞ。何故進んでいない…!?そういえば、このような場所をなぜ我々"教団"は今まで制圧出来ていない!!?

―異常だ。異常、異常異常異常異常異常異常異常いじょういじょういじょう!

アルファチームのリーダーの意識がそう告げると共に、数名の行方不明者が戻ってきた。物言わぬ肉塊となって。



そう。ここがサイレントゾーン。世界結界の穴を突いた場所である。
世界結界が世界の『異常』を修復していた。その世界結界が無い今、世界は、特に鎌倉は『異常』なエリアである。
だが、『異常』を認識する人間がいなければどうなるか。正常と異常の概念は無くなり、ゴーストや怪奇現象と言ったものはそれ自体に帰依する。
つまりは白夜と同じ。白夜それ自体を認識しなければ、ただの昼、日中であり、そこに異常や正常を差し挟む余地は無い。

このゾーンで『異常』を感じた者は『此方側』へ来る。
『此方側』ではゴーストが天井知らずの質と量で襲い掛かってくる。
『此方側』で殺された事実は、向こうで異常正常の判断を加えられずに結果として残る。
このゾーンで更に『異常』の判断を下した者は『此方側』へ。『異常』の判断を下す者がいなくなるまでその繰り返し。
この結果を遠方で受け取る者は当然、そこに異常正常の判断を挟む余地は無い。

此処へ来ない者が異常を認知する事は無い。来た者が生きて帰る事も無い。
これがサイレントゾーンと呼ばれる場。不可避。不可視。不可知。
故に、今まで能力者や政府、"教団"を初めその他組織までも欺く事が出来た。






流石に"教団"の人間である。2時間ほど絶望的な退却戦を繰り広げている。
―そう。このサイレントゾーン。致命的な欠点がある。―

隠れては見つかり、仲間を減らして逃げ仰せ、隠れては見つかり…正に絶望的である。
―このゾーンは異常だ。という認識を持ち帰られるとその効力が無に帰す点である。―

しかし、ゴーストにしては動きが統率されている。何より、これほどやっていて逃げ場が無いのである。
―今までの現実から演繹的に辿っていくと、その疑問に対する答えは現れる。―

妖獣や知性が全く無いと思われるゴーストはおらず、大半が人間のリビングデッドや自縛霊である。
―つまり"利用者"…そしてそのための"統率者"がいると言う事である。―


「その服は…教団…現在の鎌倉の支配団体だったか。その犬が何の用だ?…ま、ここは"白夜の領域"。今までの犠牲者同様、迷い込んだんだろうがな。」

その男はゴーストの群れから現れた。神々しいまでの白金の光を纏う、それでも拭い切れないほどの禍々しい漆黒のオーラ。
髪色は鮮やかな金。そして虫を見ているかのような両の眼からは銀色の無感情な光が発せられている。

「阿呆みたいな面でこっちを見るな。どうせアンタも此方側に…そして此方側の戦力になる」

"犬"は既に理解の範疇を越えているらしく、痙攣と失禁で戦慄いている。
このゾーンのゴーストはつまり――ここで死んだ、殺された人間―
元々死んでいた者から、彼が"白夜"で殺した者など、その実態は様々である。
もしかしたらその中にいるのかもしれない。例えば"宗主"の――

「兵隊はゴースト。こいつで兵站の心配はいらん。
さらにこの領域は難攻不落どころじゃない。文字通り『不可侵』なんだからな。」

戦闘と死の関係にある矛盾、戦力の行使で戦力が減耗するという矛盾。
ゴーストを兵隊にする事で、敵を殺して自分の兵隊にする事で解決する。

城や砦、物理的な防御方法を遥かに凌ぐ堅牢な守備。『認知不可』という絶対防壁。
その維持方法は簡単。知覚者の全排除。

「さて、アンタの知ってる事も話してもらおう。俺は外の情報を手に入れられないからな。
洗いざらい喋れ。もしかしたらこの異常事態から抜け出せるかも知れんぞ。」

それは人としての尊厳、理念、誇り、名誉と言うものを軒並み捨てる事で初めて成し得る芸当。
究極の合理性は人にあらざる事であるが、人に因らない合理性はもはや意味を成さない。


「"宗主"に"レギオン"…か。"二つ名"なんて大層な連中も外で大暴れしてやがる…と。」
知っている事を全て、とは言え末端の彼の知ってる事は最近の鎌倉の動向程度のものだが…
兎に角全ての情報を吐き出し、確かに異常事態から抜け出せた教団の最後の男。何故なら異常も正常も無い"結果"になったから。

「俺を差し置いて『軍団』なんてふざけた名前を付けたあの男に、久しぶりに興味が沸いた。」

彼の使役ゴースト"達"にそう告げる。"白夜の領域"は彼の意識―つまり『異常』―を他と共有させる事が本質である。
サイレントゾーンは所詮第三者の噂。それは移動可能なのだ。

「とりあえず、要求を飲ますか。…アレ以来、奴がどう変貌したか見者だな。」
もちろん勝算無しで行く訳ではない。むしろ修羅へと堕ちた彼は残酷なまでに計算し尽されている。


「…俺は…"此処"さえ守れればそれで良いんだ……。」
左耳には古ぼけたピアス。15の頃からそのアクセサリーだけは変わっていない。

――俺はもはや騎士じゃない。死と裏切りの夜だ。
百夜を統べるのは一の白夜…クスクス…こいつを二つ名にするか。――
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