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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】 動かない残像(2)

動かない残像(2)

焦土と化した鎌倉の街を、真貴は彷徨っていた。
右を見ても左を見てもあるのは廃墟だけであり、灰色の絵の具をぶちまけたような曇天は更に虚無感を誘う。
『宗主』を探さなければ。真貴の頭はそのことでいっぱいだった。
はやく戦いたい。
はやく戦いたい。
戦って、あいつを打ち倒したい。
今までこの心を支配していたのはきっと乾きなのだ。
鎌倉が封鎖特区になり、能力者の戦いは終わった。
大多数の能力者達は、政府の保護の下鎌倉の地を離れたという。かつての戦友たちも、今は平穏にしているのだろう。
だが、真貴は違った。どうしても踏ん切りをつけることができず、この鎌倉の地に留まっていた。
実感が沸かないのだ。自分の戦いに敗北という形で幕が下ろされたことが。もう、再挑戦はままならない。
真貴の心には何も残っていない。
「青の偶像」のような輝く希望も無ければ、「左利き」のように燃える復讐心も無い。
ただ、乾いている。
戦うために能力者になったのだ。戦わなければ。
打ち倒すために能力者になったのだ。打ち倒さねば。
はじめからそうだった。自分の相手はゴーストだけではない。
負けたままではいられない。

あいつを倒さねば。

あいつを倒して…

倒して、その後は…

「嘉島先輩、何をそんな難しい顔してはるんですか?」

真貴の思考を遮るように、投げかけられた言葉。
視線を戻すと、そこには一人の少女が立っていた。
狐色のトレンチコートを身にまとい、手には五芒星が描かれた白い手袋。
見覚えのある、狐目。

「葛葉…いなり…」

「うちのこと覚えててくれはったんですか。感激やわあ♪」

口元を歪めて、『葛葉』は哂った。
真貴は、とても再会を喜ぶ気にはなれない。
かつて結社長と結社員という仲だった二人。
以前より少し大人びたが、いなりはかつての面影を色濃く残していた。
変わらない千年女優。
しかしそれも真貴にとってはただ空しいだけだ。
状況は変わってしまった。そしておそらく、立場も。

「少し痩せはりましたか?眼鏡もやめてしもたんですね」

「葛葉、ここで何をしている?…潜伏していた、というなりではないな」

しげしげと見つめるいなりを無視し、真貴は問いかける。

「…いややわあ。つれないんですね、先輩」

「政府に下ったか、葛葉」

「だったら、どうやって言うんです?」

張り詰めた空気が場を支配する。お互い視線さえも微動だにしない。
少しの沈黙の後、真貴が口を開いた。

「政府のことも、お前のことも、俺は興味が無い。…『宗主』の居場所を探している。
お前の目的は知らんが、少なくともそれくらいの情報は知っているはずだ」

「そういうことやったんですか。長いこと動いてなかった先輩が今になって行動を始めはったのは」

真貴の行動は全て監視されていた、と言わんばかりの発言だ。
しかし政府ならばそれくらいはやりかねないし、無気力に過ごしていた真貴が無防備だったのも確かだった。
そんなことは今となってはどうでもいい。必要なのは、『宗主』の情報だ。

「答えろ、葛葉。『宗主』はどこにいる」

「そうですねえ」

いなりは言葉を止めると、わざとらしく口元に手を当てた。
顔には哂いだけが張り付いている。
嘲るでもなく、見下すでもなく、ただただ哂っている。

「お断りします」

瞬時、真貴の周りに微量の風が纏わりついた。表情は険しい。

「…なんて言ったら、どないしはります?」

それに気圧された素振りも無く、いなりはおどけてみせる。
考えてみればいなりに質問に答える義理は無い。
政府のエージェントとして働いているならば、機密を守るのは当然だ。
それでも、真貴は情報を得なければならない。
どんな手を使ってでも。

「お前を殺して端末から情報を貰う」

言い切った。かつての真貴では考えられない行動。
最早、以前の彼ではない。残っているのは、乾き。

「…先輩、変わってしもたんですね」

「お前は変わらないな」

一瞬の目配せ。それだけで、二人には十分だった。

「「イグニッションッ!!!」」

殺し合いの幕が、切って落とされた。

叫びが共鳴し、あたりを閃光が包む。
真貴の手には逆手に握られたナイフ。
対するいなりの手には南部式拳銃を模した詠唱銃。
二人の距離は約10m弱というところであり、つまるところいなりの領域だ。

「ほな、さっさと終わらせてもらいます」

真貴が駆け出すよりも一瞬早く、いなりの詠唱銃が火を噴く。
狙いは正確。放たれた三発の弾丸の全てが急所を襲う。

「舐めるなッ!」

その全てををかろうじてナイフで弾き、真貴はなおも前進する。
しかし、いなりの攻撃はその程度では無かった。

「殺す言いはったからには、殺される覚悟も出来てますやろ?」

詠唱銃による射撃はあくまで牽制。その隙に、呪殺の力を込められた符がいなりの指に挟まれていた。
一瞬にしていなりと真貴との間を何十枚もの符が舞い、遮った。その一枚一枚が必殺の力を秘めている。

「舐めるなと…言っているッッ!」

一喝。真貴の周囲に暴風が吹き荒れた。その威力は符の壁をいともたやすく吹き飛ばす。
距離を詰めるに十分なスピード。一瞬にして真貴はいなりの眼前へと迫る!

「龍尾…脚!!」

暴風を纏った真貴の蹴りがいなりを捉えた。
…かに見えた。しかし、浅い。いなりは直前で詠唱銃をかざし、衝撃を殺す。

「もう一押し足りまへんなぁ」

更にそこからすかさず撃ち込まれる炎の魔弾。この距離で、真貴はかわすことが出来ない。
真貴が炎を受けて怯む隙に、いなりはバックステップで距離を取る。

一瞬の交錯。お互いにまだ手を残している。

「少しは出来るようになったか、葛葉」

「先輩は弱なったんとちゃいますか?」

炎を振り払い、真貴はいなりを睨みつける。対するいなりは、まだ飄々とした様子である。
葛葉いなり優勢。このまま決め手を欠けば、近づけぬまま一方的に倒れるのは真貴だ。
まだ、終われない。こいつを殺してでも、『宗主』に近づかねば。

「…そうか。すまんな、葛葉。お前は俺の目的じゃないが…手を抜いては礼に反するということか」

不敵な笑みを浮かべ。構える。辺りに風が渦巻いた。
最速を自負する男の最速の一撃が、放たれようとしている。
流石のいなりもこれには身構えた。相対する男は腐っても同じ一期生。高い実力を持っている。
防げなければ、おそらく死ぬ。

「…Sクラス限定解除の必要がありそうやね…」

いなりの周囲がざわつく。真貴の荒々しい風とは違う、ざわつき。
まるで地の底から沸き立つような悪寒が周囲を覆う。
おそらく次の瞬間、勝負は決する。どちらかの死を以って。

時が止まったかのように思えた。
お互い視線は外さない。
かつての仲間を手にかけるという罪悪感。それすらも、彼岸の彼方だった。
倒して、進む。それだけだ。

「行くぞ」

「行きますえ」

緊張が最大に達したその瞬間、轟音が辺りに木霊した。

あまりの衝撃に、地面すら鳴動している。
勿論、二人によるものではない。どこか近くで、大規模な爆発が起こったようだった。

「ちっ、どうなってる!」

「この爆発は…“猫”さんの言ってはった…」

わけも分からない真貴に対して、いなりは何か感じ取った様子だ。

「…先輩、この勝負はお預けや。これ、差し上げます」

いなりはコートから何か取り出すと、真貴に向かって投げつける。
地名が書かれたメモのようだった。

「『宗主』の本拠地はそこに書いてある通りです。信じる信じないは先輩の自由ですよって」

「…どういうつもりだ…」

いなりの不可解な行動に真貴は眉を潜めた。
政府のエージェントとして、情報を守る必要があったのではないのか。

「私にとってはどっちでもええんです。…例え先輩が無駄死にしようとね」

一瞬だけ、いなりの表情に影が落ちたかに見えた。
しかしそれも束の間、いなりはコートを翻すと爆発のあった方向へと駆け出していく。
追いかける気には、何故かならなかった。真貴はメモを握り締め、暫くそこで立ち尽くすばかりだった。
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