あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【20XX年 封鎖特区 鎌倉】
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
―廃屋Pigeon-Blood
今日は珍しく晴れていた。
『反宗主レジスタンス熱烈歓迎』の横断幕を満足げに見上げ、
我らが比留間・イドラはえへんと胸を張った。
「いたいた、小姐…何をやってるンです?」
「あー、張先生。怪我は治ったんですか?」
「はっはっはー。僕は太陽の光を浴びていレバ、どんな傷でも治りますかラ!!」
そういいながらピョンピョンとその場で飛び跳ね、足も完治したことをアピールしてみせる。
イドラはそれを見て朗らかに笑うと、今度は自分にかけられた質問に答えることにした。
「嬉しいんです」
「…。嬉しイい?」
首をかしげる張。
「はい。だってそうじゃないですか。
この横断幕を見て、みんな『このままじゃダメだ』って思い始めている。
それって、スゴい変化だと思うんですっ」
確かに、今までなら"宗主"を筆頭に、様々な道を外した能力者たちが跋扈するこの封鎖特区で、彼等に反旗を翻そうなどとは誰も夢にも思わない。
「………」
サングラスを指で上げ、イドラと一緒に横断幕を見上げる張。
彼女ほど素直に喜べなくなったのは、何故だろうか。
「小姐…手をお借りしてもよろしいですかね?」
「手…? ええ、どうぞ…」
イドラの手は拳ダコができていて、お世辞にも綺麗とは言い難い手だった。
だが張はそれが何よりも美しい手だと確信する。
膝を突き、帽子を手に取り胸にあてる。
空いた方の手で騎士のようにイドラの手を軽く持つ。
「ありがとう、小姐。俺はあなたの正義にかけて誓う。
この青空が落ちるまで、 地が裂け海が俺を飲み込むまで…。
俺は、『あなたの』味方です」
あまりに唐突な展開に何度もまばたきするイドラ。
だが、張が大真面目に啖呵をきっているのだと思うと。微笑んでそれに応じる。
「ありがとう、友よ。
わたしもあなたの名誉にかけて誓う。
あなたがわたしを信じてくれたことが、愚かなことでは絶対にないと証明するために。
わたしは戦います。命の限り」
「…何をやっているのかしら、お二人とも?」
「「っ!!!?」」
廃屋の女主人、ピジョン・ブラッドは意地の悪い笑みを浮かべながら二人の間にいつの間にか立っていた。
「い、いや"首魁"これは…ッ」
「おほほほ、若いって素敵ですわねぇぇぇ。
何か肌のツヤが良くなっていきますわ」
しどろもどろの弁解をする"亡霊"を面白そうにいじめる"首魁"。
イドラは何だかよくわからないので、とりあえずぽややんと微笑むことにした。
「あ、そうだ。ピジョンさん、それで例の件は…」
「…ああ、そうでしたわね。
わたくし、それを伝えに来たのを失念していましたわ」
こほんと一つ咳払いをして、場をリセットする。
「レギオンの爆心地は相変わらずの混沌状態で、ノイズが酷すぎですわ。
正直、現地にいかないと何ともいえない状況ですわね…」
「そうですか…」
「あ、もしかシテ、この前小姐が言ってた、"左利き"と"赤錆"とかいう人たちの事ですカ?」
頷くイドラ。
「はい。銀誓館学園時代、おねえちゃんと一緒に戦ってた人たちです。
わたしも、何回か会ったことはあります…」
「横断幕を掲げたからには、相応の戦力を集めないとなりませんわ。
彼らなら文句なく歓迎するのですが…」
ため息をつく二人を交互に見る張。この後、彼は自分の発言をひどく後悔する事になる。
「それナラ。迎えに行けばいいじゃないですカ。こっちから」
―エノシマ・エリア レギオン爆心地周辺
「ひぇぇぇぇ!!!?」
「龍撃砲(バスタァァァビイィィィ―――ム)ッッッッ!!!」
拡散するビームがゴーストたちを次々と駆逐していく。だがそれを補う悪霊、悪霊、また悪霊。
「まったく…迂闊な発言でした…よっト!!」
詠唱銃を休みなしで打ち続けること数十分。いい加減手が疲れてきたが、中心地まであとわずかなのも確かである。
「もう少しです! 頑張りましょう、張先生ッ!!!」
「はいはい! 壮揚兵馬(ちょあんやんぴんまぁ)ッッ!!」
強引にゴーストの壁を突き破り、一気に突破する。
「「っ!?」」
突き抜けるほどに青い空。
まるでそこだけ台風の目であるかのように、驚くほどに静かであった。
「これは…」
「小姐、あれはっ!?」
「…え?」
張が指さした方を見るイドラ。
―瞬間。意識が凍りついた。
「な…」
眼前には。
「…ッッ!!!」
"赤錆"と。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
自分の姉の容姿を持つ『何者か』が。
「マイトぉぉ!! あたしがお前の手加減で倒せる相手と思ったか!?
何故『拳』を使わないッ!!?」
「…答える義務はないと判断する」
死闘を繰り広げていた。
片手で大剣『絶讐』…というよりは鉄塊のようなものを振り回す"赤錆"に対し、相手は小ぶりのリボルバーガントレット2丁。
腕力対速度。剛と柔の真正面からの激突。
「マイトさんッ!!」
「ッ!? …そうか。そういえば何回か太陽が落ちていたな」
「ちょ…二人とも、どんだけ戦っていたんですカッ!!?」
思わず張が叫ぶ。侵入者二人に興が冷めたのか、"赤錆"と戦っていた女は舌打ちして一旦間合いを離す。
「今日で三日目だ!!」
「な、なんテいう…」
「だがそれも、もう終わり。…立てよマイト。
トドメを刺してあげるわ」
言いながら飛び出してきた小型のゴーストを一瞬で掴み、それを『貪り喰う』女。
あれが彼女にとっての体力補給というわけか。
「言われずともゆく…ッ」
よろよろと立ちあがる"赤錆"。ゴーストの壁に近寄り、手近なゴーストを『絶讐』で引き裂く。
「ふふ…マイト。あんた、アビリティもうないでしょ?」
「どうかな…?」
「黒影剣を使っている『フリ』をしても無駄よ…。体は正直なんだから」
小さく舌打ちし、『絶讐』を引きずりながら突き進む"赤錆"。
「やめてよおねえちゃん!!」
と、二人の間に割ってはいる小柄な少女。
「うん…?」
女は今やっと気がついたように目を細め、イドラの方を見る。
「…イドラか。久しぶりだと言っておこう」
「う…お、おねえちゃん!? やっぱりおねえちゃんなんだね!?」
「イドラ…下がれ! あれはお前の姉なんかじゃない!!」
引き止める"赤錆"の言葉も聞かず、更に駆け寄り、姉の胸に飛び込むイドラ。
「おねえちゃん…! おねえちゃん…! わたし…わたし…!!」
「…ふん」
そして、その妹を突き飛ばす姉。
「っ!!? がっ…うっ…」
「小姐ッ!!?」
張に抱き起こされながら、目に涙をいっぱいためてイドラは姉を見上げる。
「おねえ…ちゃん…? どうして…?」
「ここにいるのは貴様の『おねえちゃん』などではないッッ!!」
肉食獣のごとき気迫の篭った声が響く。
「人より気高く咲いて散る魂!
天上天下比留間式防衛術、"イド"だッ!!」
「う、嘘だ…」
「事実だ!」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッッッ!!!!」
―教団能力者部隊『黙示録の獣(リヴァイアサン)』
―"道化師"の"イド"、見参。
始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
―廃屋Pigeon-Blood
今日は珍しく晴れていた。
『反宗主レジスタンス熱烈歓迎』の横断幕を満足げに見上げ、
我らが比留間・イドラはえへんと胸を張った。
「いたいた、小姐…何をやってるンです?」
「あー、張先生。怪我は治ったんですか?」
「はっはっはー。僕は太陽の光を浴びていレバ、どんな傷でも治りますかラ!!」
そういいながらピョンピョンとその場で飛び跳ね、足も完治したことをアピールしてみせる。
イドラはそれを見て朗らかに笑うと、今度は自分にかけられた質問に答えることにした。
「嬉しいんです」
「…。嬉しイい?」
首をかしげる張。
「はい。だってそうじゃないですか。
この横断幕を見て、みんな『このままじゃダメだ』って思い始めている。
それって、スゴい変化だと思うんですっ」
確かに、今までなら"宗主"を筆頭に、様々な道を外した能力者たちが跋扈するこの封鎖特区で、彼等に反旗を翻そうなどとは誰も夢にも思わない。
「………」
サングラスを指で上げ、イドラと一緒に横断幕を見上げる張。
彼女ほど素直に喜べなくなったのは、何故だろうか。
「小姐…手をお借りしてもよろしいですかね?」
「手…? ええ、どうぞ…」
イドラの手は拳ダコができていて、お世辞にも綺麗とは言い難い手だった。
だが張はそれが何よりも美しい手だと確信する。
膝を突き、帽子を手に取り胸にあてる。
空いた方の手で騎士のようにイドラの手を軽く持つ。
「ありがとう、小姐。俺はあなたの正義にかけて誓う。
この青空が落ちるまで、 地が裂け海が俺を飲み込むまで…。
俺は、『あなたの』味方です」
あまりに唐突な展開に何度もまばたきするイドラ。
だが、張が大真面目に啖呵をきっているのだと思うと。微笑んでそれに応じる。
「ありがとう、友よ。
わたしもあなたの名誉にかけて誓う。
あなたがわたしを信じてくれたことが、愚かなことでは絶対にないと証明するために。
わたしは戦います。命の限り」
「…何をやっているのかしら、お二人とも?」
「「っ!!!?」」
廃屋の女主人、ピジョン・ブラッドは意地の悪い笑みを浮かべながら二人の間にいつの間にか立っていた。
「い、いや"首魁"これは…ッ」
「おほほほ、若いって素敵ですわねぇぇぇ。
何か肌のツヤが良くなっていきますわ」
しどろもどろの弁解をする"亡霊"を面白そうにいじめる"首魁"。
イドラは何だかよくわからないので、とりあえずぽややんと微笑むことにした。
「あ、そうだ。ピジョンさん、それで例の件は…」
「…ああ、そうでしたわね。
わたくし、それを伝えに来たのを失念していましたわ」
こほんと一つ咳払いをして、場をリセットする。
「レギオンの爆心地は相変わらずの混沌状態で、ノイズが酷すぎですわ。
正直、現地にいかないと何ともいえない状況ですわね…」
「そうですか…」
「あ、もしかシテ、この前小姐が言ってた、"左利き"と"赤錆"とかいう人たちの事ですカ?」
頷くイドラ。
「はい。銀誓館学園時代、おねえちゃんと一緒に戦ってた人たちです。
わたしも、何回か会ったことはあります…」
「横断幕を掲げたからには、相応の戦力を集めないとなりませんわ。
彼らなら文句なく歓迎するのですが…」
ため息をつく二人を交互に見る張。この後、彼は自分の発言をひどく後悔する事になる。
「それナラ。迎えに行けばいいじゃないですカ。こっちから」
―エノシマ・エリア レギオン爆心地周辺
「ひぇぇぇぇ!!!?」
「龍撃砲(バスタァァァビイィィィ―――ム)ッッッッ!!!」
拡散するビームがゴーストたちを次々と駆逐していく。だがそれを補う悪霊、悪霊、また悪霊。
「まったく…迂闊な発言でした…よっト!!」
詠唱銃を休みなしで打ち続けること数十分。いい加減手が疲れてきたが、中心地まであとわずかなのも確かである。
「もう少しです! 頑張りましょう、張先生ッ!!!」
「はいはい! 壮揚兵馬(ちょあんやんぴんまぁ)ッッ!!」
強引にゴーストの壁を突き破り、一気に突破する。
「「っ!?」」
突き抜けるほどに青い空。
まるでそこだけ台風の目であるかのように、驚くほどに静かであった。
「これは…」
「小姐、あれはっ!?」
「…え?」
張が指さした方を見るイドラ。
―瞬間。意識が凍りついた。
「な…」
眼前には。
「…ッッ!!!」
"赤錆"と。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
自分の姉の容姿を持つ『何者か』が。
「マイトぉぉ!! あたしがお前の手加減で倒せる相手と思ったか!?
何故『拳』を使わないッ!!?」
「…答える義務はないと判断する」
死闘を繰り広げていた。
片手で大剣『絶讐』…というよりは鉄塊のようなものを振り回す"赤錆"に対し、相手は小ぶりのリボルバーガントレット2丁。
腕力対速度。剛と柔の真正面からの激突。
「マイトさんッ!!」
「ッ!? …そうか。そういえば何回か太陽が落ちていたな」
「ちょ…二人とも、どんだけ戦っていたんですカッ!!?」
思わず張が叫ぶ。侵入者二人に興が冷めたのか、"赤錆"と戦っていた女は舌打ちして一旦間合いを離す。
「今日で三日目だ!!」
「な、なんテいう…」
「だがそれも、もう終わり。…立てよマイト。
トドメを刺してあげるわ」
言いながら飛び出してきた小型のゴーストを一瞬で掴み、それを『貪り喰う』女。
あれが彼女にとっての体力補給というわけか。
「言われずともゆく…ッ」
よろよろと立ちあがる"赤錆"。ゴーストの壁に近寄り、手近なゴーストを『絶讐』で引き裂く。
「ふふ…マイト。あんた、アビリティもうないでしょ?」
「どうかな…?」
「黒影剣を使っている『フリ』をしても無駄よ…。体は正直なんだから」
小さく舌打ちし、『絶讐』を引きずりながら突き進む"赤錆"。
「やめてよおねえちゃん!!」
と、二人の間に割ってはいる小柄な少女。
「うん…?」
女は今やっと気がついたように目を細め、イドラの方を見る。
「…イドラか。久しぶりだと言っておこう」
「う…お、おねえちゃん!? やっぱりおねえちゃんなんだね!?」
「イドラ…下がれ! あれはお前の姉なんかじゃない!!」
引き止める"赤錆"の言葉も聞かず、更に駆け寄り、姉の胸に飛び込むイドラ。
「おねえちゃん…! おねえちゃん…! わたし…わたし…!!」
「…ふん」
そして、その妹を突き飛ばす姉。
「っ!!? がっ…うっ…」
「小姐ッ!!?」
張に抱き起こされながら、目に涙をいっぱいためてイドラは姉を見上げる。
「おねえ…ちゃん…? どうして…?」
「ここにいるのは貴様の『おねえちゃん』などではないッッ!!」
肉食獣のごとき気迫の篭った声が響く。
「人より気高く咲いて散る魂!
天上天下比留間式防衛術、"イド"だッ!!」
「う、嘘だ…」
「事実だ!」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッッッ!!!!」
―教団能力者部隊『黙示録の獣(リヴァイアサン)』
―"道化師"の"イド"、見参。
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