あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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『報告:エノシマ西エリア一連の事件は沈静化に向かっている。
その他の封鎖地区情報
・本日未明、―エリアにて"葬失"による無差別殺人があった模様。
・続いて同エリア西で"教団"による粛清、教化活動が行われたらしく、死者多数。
・―エリア南東にて"政府"が"赤錆"系レジスタンス(後述"リベリオン")を攻撃。
・拠点の一つを制圧したようだが、戦果は少なく破壊せず放棄した模様。
・その他ゴーストや第三勢力による被害も大小含まれるが割愛する。
尚、要注意人物及び"ネームド"の死亡は確認されず。』
政府に、教団に、そして有志達に断続的に齎される情報である。
封鎖特区にまともなインフラが存在しない以上は、各組織の諜報員の活動が全てである。
彼らは状況証拠や最も合理的な判断を以って調書を書き上げ、報告する。
そう。状況証拠や判断そのものに疑問を抱く事は無く。
結論から言えば、上記の報告は全て誤報である。
だが、意識の総意が疑う要素の無い虚偽を認めたとき、それは真実となる。
被害者、つまり死体は嘘ではない。違うのは加害者の方。
殺害対象を定めず、殺害原因を認めず、殺害の『結果』だけを曝す。
"白夜"は過敏なほど周到に、残酷なほど冷徹に行動し、目的のために活動する。
新たな犠牲者を"百夜"達に加え戦力を蓄えながら、ある場所へと向かった。
「一分一秒遅れれば生存率は下がる。…それとも。俺に奴等を放っておけと?」
同志の危機、仲間の絶体絶命となれば常に助けに征くミラーシェード。
危険度Aクラス、残存する最強ランクの剣士であり、"反逆者"の力の象徴
「御武運をお祈りします。…がんばってください」
生存率は低くても、その行動が"リベリオン"の同志にどれほどの救いになっているか。
数刻前までの激戦地だろうが、敵地の只中であろうが斬り拓く。仲間を助けるのが第一条件。
その自負と責任が彼を動かしている。その信頼と行動が同志を奮い立たせている。
「Allright。Buddy。…心配するな。アレを殴るまでは俺は死なんよ」
彼女はその後姿を見送った後、その男の背負った物を再び考える。
思考の袋小路へ追い込まれ、程なくしてまどろんだ意識を手放し、篝火のそばで軽い仮眠を取った。
・
・
・
「――ぁ…なぁ、アンタ。起きたほうが良いぞ。」
はっと我に帰ると、拠点が少し慌しい。彼女は横で機敏に作業している仲間に聞いた。
どうやら裏手でゴーストが発生。歩哨に死人を出した後、何故か何処かへ行ったらしい。
もう撤収整理は済んだが、そのせいで仲間達の間に少し緊迫した空気が流れているのだと言う。
「くっ…そんな…ッ!!!」
自分が起きていれば防げたかもしれない。白濁した意識の中でも確かに悔やむ正義の心。
しかし、実際はどうであろう。彼女一人で守りきれるほど、"リベリオン"の拠点は小さくない。
突発的なゴーストの無軌道な襲撃を常に一人で交わし切るのは不可能で、そのために交代制の歩哨がある。
「いや、アンタが来ない方が良かったと思うぞ。…止むを得ん事は存在する。」
「いえ、手段はあったはずです…。何かしらの手段が…」
理解は出来るが、納得は出来るが、肯定出来ない。したくない。…でも、反論出来ない。
どう言う理論展開をした所で、結果に文句を言うのは水掛け論の堂々巡りである。
そのまま暫く無言の時間が流れていたが、唐突に口を開いたのは向こうからだった。
「……ところで…だ。"宗主"や"教団"についての情報が欲しい。何かあるか?」
何の躊躇いも無く言い放つ禁忌(タブー)。その無神経な物言いに彼女は背筋を凍らせた。
声の主はそれがいかな恐怖と災厄の根源なのかを知らないのか。或いは意に介さないのか。
そして、今までよく見てなかった彼女は初めて自らと対話している相手を把握した。
白人の男。プラチナ、ブロンドと言うよりゴールドに近い髪は何処と無く気高い印象。
両目は銀、鈍色の輝きを放つそれは、やはり力強さや強靭な意志を孕んでいる。
高い痩躯を黒いパイロットコートで包み、体の所々に包帯が施してある。
夕刻のロンドンやリバプールあたりでお目にかかれそうな、上品かつ嫌味の無い装飾。
だが、その凛然たる外観にも関わらず、その眼その四肢そのモノから溢れるオーラは、冷酷無比な死神そのものであった。
「…なるほどな。"赤錆"に"左利き"…エノシマエリア…と」
彼女は運が良かった。第一印象は悪いが、話し辛いがそれでも、悪い人じゃないと言う認識が。
起き抜けに自分の知らない人間と喋るという事を『異常』だと認識しなかった事が。
徹底した合理主義者。―既に「者」ではなく「モノ」なのであるが―は、彼女を殺害対象にはしなかった。
最良は敵を作らない事。敵を作って、消す。つまり殺す事は『最効率』ではない。
生物としての理由を失った―葬失とは似て非なる―災厄は、合理性のみを追求した。
倫理観や愉悦など持ち合わせないが故に、彼の『災害』も手段の一つでしかない。
"白夜"は"教団"の『情報』を得る最も効率的な方法として"青"から聞き出すと言う手段を選んだだけなのである。
「大体そんな感じです。"教団"本部は、偵察の人も皆行方不明なので何処にあるか分からないのですが。」
「こんなエリアで迂回戦術は使わん。進軍と逆の方向を虱潰しにすればある程度見当はつく。」
「そんな…戦力が違いすぎて無茶です!……他の情報だと――」
彼女も全てを知っているわけではない。認識事項として、仲間からや"赤錆"宛の情報を盗み聞きしている程度である。
しかし上下差の小さい抵抗勢力の情報網は"教団"の末端よりも開放的である。
彼女も恐らく『誰か知らないがリベリオンの仲間と情報を共有している』認識で口を開いている。
ナイフを道具にするか凶器にするかは受け手である。『異常』が分からないなら金物屋に咎は無い。
見えない災厄にその対象を与えた事で、誰が彼女を責めれよう。少なくとも、災厄が見えたならこの拠点は存在し得なくなるのだから。
用が済めば速やかに立ち去る事が合理的であるか。大局的にはそれは正解ではない。
「マイト…"赤錆"さんと知り合いなのですか?」
「いや、そうじゃない。"俺"は"赤錆"なんて名前に覚えは無い。…」
難なく会話を切り上げ、後腐れを残さない技術。相手に好印象を残せば尚良し。
「が…そうだな。俺の存在が万が一にも彼の傷口を抉るわけにはいかん。だろ?そう言うことだ。」
「あー…推して知るべし。ですね。分かりました。比留間・イドラ。約束を違える事はありませんッ!」
自らの存在を隠匿する。人間の好意はこんな所でも効いてくる。
暢気な雑談の中ですら理を求めるモノ。感慨や感傷に浸る事一切を許さず、脳回路は回転する。
―同じ戦場で踊り、その臨む姿勢の違いに初めて敬意を抱かせた、覚悟の者。その死。
そして継ぐ者。…その逸材を【利用するために何が最適か。】
―盾として最前線で闘った剣闘士。その男の同志、反逆者達。【潰すなら何時が最適か。】
―半身となっても戦う嘗ての仲間。"軍団"に取り込まれた哀れな嘗ての仲間【何処で排除するのが最適か。】
―嘗て"宗主"ではなく"君主"だったあの男。【どうして殺すのが最適か。】
感情は邪魔だ。と言う感情すら邪魔。
螺旋状に孕む矛盾の人間性一切をも持ち得ない"災厄"は、思考全てをタスクとして処理して行く。
「じゃ、俺はそろそろ行く。アンタも頑張れよ。」
「はい、頑張ります! あなたも頑張ってください!絶対に、負けるな!」
無感情の激励。これで完璧。存在を好意で上塗りし、忘却までの時間を稼ぐ。好意が忘却すれば、存在もまた然り。
「御武運をッ!あっ…差し支え無ければ名前を―」
その後姿からはやはり人間の生気は見て取れない。言うなれば宵闇と静粛の「夜」
ヒトなのであるが…ヒトには見えない。まるで、外見と本質の違う…夜…?まるで…。
彼女の自己諮詢は忘却に飲まれるだろうが、確かにたどり着いた。あの男は"白夜"のようだったと。
帰りは警備の間を縫って出る。侵入に比べ脱出は楽である。そのまま夜の闇に消えた。
―"白夜"であれば態々潜行する必要は無いのだが、何故か本拠に入って来た時の様に、歩哨を殺める事はしなかった。―
その他の封鎖地区情報
・本日未明、―エリアにて"葬失"による無差別殺人があった模様。
・続いて同エリア西で"教団"による粛清、教化活動が行われたらしく、死者多数。
・―エリア南東にて"政府"が"赤錆"系レジスタンス(後述"リベリオン")を攻撃。
・拠点の一つを制圧したようだが、戦果は少なく破壊せず放棄した模様。
・その他ゴーストや第三勢力による被害も大小含まれるが割愛する。
尚、要注意人物及び"ネームド"の死亡は確認されず。』
政府に、教団に、そして有志達に断続的に齎される情報である。
封鎖特区にまともなインフラが存在しない以上は、各組織の諜報員の活動が全てである。
彼らは状況証拠や最も合理的な判断を以って調書を書き上げ、報告する。
そう。状況証拠や判断そのものに疑問を抱く事は無く。
結論から言えば、上記の報告は全て誤報である。
だが、意識の総意が疑う要素の無い虚偽を認めたとき、それは真実となる。
被害者、つまり死体は嘘ではない。違うのは加害者の方。
殺害対象を定めず、殺害原因を認めず、殺害の『結果』だけを曝す。
"白夜"は過敏なほど周到に、残酷なほど冷徹に行動し、目的のために活動する。
新たな犠牲者を"百夜"達に加え戦力を蓄えながら、ある場所へと向かった。
「一分一秒遅れれば生存率は下がる。…それとも。俺に奴等を放っておけと?」
同志の危機、仲間の絶体絶命となれば常に助けに征くミラーシェード。
危険度Aクラス、残存する最強ランクの剣士であり、"反逆者"の力の象徴
「御武運をお祈りします。…がんばってください」
生存率は低くても、その行動が"リベリオン"の同志にどれほどの救いになっているか。
数刻前までの激戦地だろうが、敵地の只中であろうが斬り拓く。仲間を助けるのが第一条件。
その自負と責任が彼を動かしている。その信頼と行動が同志を奮い立たせている。
「Allright。Buddy。…心配するな。アレを殴るまでは俺は死なんよ」
彼女はその後姿を見送った後、その男の背負った物を再び考える。
思考の袋小路へ追い込まれ、程なくしてまどろんだ意識を手放し、篝火のそばで軽い仮眠を取った。
・
・
・
「――ぁ…なぁ、アンタ。起きたほうが良いぞ。」
はっと我に帰ると、拠点が少し慌しい。彼女は横で機敏に作業している仲間に聞いた。
どうやら裏手でゴーストが発生。歩哨に死人を出した後、何故か何処かへ行ったらしい。
もう撤収整理は済んだが、そのせいで仲間達の間に少し緊迫した空気が流れているのだと言う。
「くっ…そんな…ッ!!!」
自分が起きていれば防げたかもしれない。白濁した意識の中でも確かに悔やむ正義の心。
しかし、実際はどうであろう。彼女一人で守りきれるほど、"リベリオン"の拠点は小さくない。
突発的なゴーストの無軌道な襲撃を常に一人で交わし切るのは不可能で、そのために交代制の歩哨がある。
「いや、アンタが来ない方が良かったと思うぞ。…止むを得ん事は存在する。」
「いえ、手段はあったはずです…。何かしらの手段が…」
理解は出来るが、納得は出来るが、肯定出来ない。したくない。…でも、反論出来ない。
どう言う理論展開をした所で、結果に文句を言うのは水掛け論の堂々巡りである。
そのまま暫く無言の時間が流れていたが、唐突に口を開いたのは向こうからだった。
「……ところで…だ。"宗主"や"教団"についての情報が欲しい。何かあるか?」
何の躊躇いも無く言い放つ禁忌(タブー)。その無神経な物言いに彼女は背筋を凍らせた。
声の主はそれがいかな恐怖と災厄の根源なのかを知らないのか。或いは意に介さないのか。
そして、今までよく見てなかった彼女は初めて自らと対話している相手を把握した。
白人の男。プラチナ、ブロンドと言うよりゴールドに近い髪は何処と無く気高い印象。
両目は銀、鈍色の輝きを放つそれは、やはり力強さや強靭な意志を孕んでいる。
高い痩躯を黒いパイロットコートで包み、体の所々に包帯が施してある。
夕刻のロンドンやリバプールあたりでお目にかかれそうな、上品かつ嫌味の無い装飾。
だが、その凛然たる外観にも関わらず、その眼その四肢そのモノから溢れるオーラは、冷酷無比な死神そのものであった。
「…なるほどな。"赤錆"に"左利き"…エノシマエリア…と」
彼女は運が良かった。第一印象は悪いが、話し辛いがそれでも、悪い人じゃないと言う認識が。
起き抜けに自分の知らない人間と喋るという事を『異常』だと認識しなかった事が。
徹底した合理主義者。―既に「者」ではなく「モノ」なのであるが―は、彼女を殺害対象にはしなかった。
最良は敵を作らない事。敵を作って、消す。つまり殺す事は『最効率』ではない。
生物としての理由を失った―葬失とは似て非なる―災厄は、合理性のみを追求した。
倫理観や愉悦など持ち合わせないが故に、彼の『災害』も手段の一つでしかない。
"白夜"は"教団"の『情報』を得る最も効率的な方法として"青"から聞き出すと言う手段を選んだだけなのである。
「大体そんな感じです。"教団"本部は、偵察の人も皆行方不明なので何処にあるか分からないのですが。」
「こんなエリアで迂回戦術は使わん。進軍と逆の方向を虱潰しにすればある程度見当はつく。」
「そんな…戦力が違いすぎて無茶です!……他の情報だと――」
彼女も全てを知っているわけではない。認識事項として、仲間からや"赤錆"宛の情報を盗み聞きしている程度である。
しかし上下差の小さい抵抗勢力の情報網は"教団"の末端よりも開放的である。
彼女も恐らく『誰か知らないがリベリオンの仲間と情報を共有している』認識で口を開いている。
ナイフを道具にするか凶器にするかは受け手である。『異常』が分からないなら金物屋に咎は無い。
見えない災厄にその対象を与えた事で、誰が彼女を責めれよう。少なくとも、災厄が見えたならこの拠点は存在し得なくなるのだから。
用が済めば速やかに立ち去る事が合理的であるか。大局的にはそれは正解ではない。
「マイト…"赤錆"さんと知り合いなのですか?」
「いや、そうじゃない。"俺"は"赤錆"なんて名前に覚えは無い。…」
難なく会話を切り上げ、後腐れを残さない技術。相手に好印象を残せば尚良し。
「が…そうだな。俺の存在が万が一にも彼の傷口を抉るわけにはいかん。だろ?そう言うことだ。」
「あー…推して知るべし。ですね。分かりました。比留間・イドラ。約束を違える事はありませんッ!」
自らの存在を隠匿する。人間の好意はこんな所でも効いてくる。
暢気な雑談の中ですら理を求めるモノ。感慨や感傷に浸る事一切を許さず、脳回路は回転する。
―同じ戦場で踊り、その臨む姿勢の違いに初めて敬意を抱かせた、覚悟の者。その死。
そして継ぐ者。…その逸材を【利用するために何が最適か。】
―盾として最前線で闘った剣闘士。その男の同志、反逆者達。【潰すなら何時が最適か。】
―半身となっても戦う嘗ての仲間。"軍団"に取り込まれた哀れな嘗ての仲間【何処で排除するのが最適か。】
―嘗て"宗主"ではなく"君主"だったあの男。【どうして殺すのが最適か。】
感情は邪魔だ。と言う感情すら邪魔。
螺旋状に孕む矛盾の人間性一切をも持ち得ない"災厄"は、思考全てをタスクとして処理して行く。
「じゃ、俺はそろそろ行く。アンタも頑張れよ。」
「はい、頑張ります! あなたも頑張ってください!絶対に、負けるな!」
無感情の激励。これで完璧。存在を好意で上塗りし、忘却までの時間を稼ぐ。好意が忘却すれば、存在もまた然り。
「御武運をッ!あっ…差し支え無ければ名前を―」
その後姿からはやはり人間の生気は見て取れない。言うなれば宵闇と静粛の「夜」
ヒトなのであるが…ヒトには見えない。まるで、外見と本質の違う…夜…?まるで…。
彼女の自己諮詢は忘却に飲まれるだろうが、確かにたどり着いた。あの男は"白夜"のようだったと。
帰りは警備の間を縫って出る。侵入に比べ脱出は楽である。そのまま夜の闇に消えた。
―"白夜"であれば態々潜行する必要は無いのだが、何故か本拠に入って来た時の様に、歩哨を殺める事はしなかった。―
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