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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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#2

かつて、刃を束ねていた者のケース。


【20XX年 封鎖特区 鎌倉

 始まりにして終わりの地、鎌倉。

 世界結界はもはや意味をなさず、

 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。

 あられもない服装で舞い踊る美女。下品という言葉しか見当たらぬ内装。空想の世界でしかありえぬような下卑た宮殿のごとき一室で、男は……血のように赤いワインを飲んでいた。

「……宗主。エノシマ・エリアの徴収が難航しています」

 男は何も纏わず、ただ美女たちの舞を見ている。ワインと、舞以外に自分の世界にある存在を認めていないかのように、ただ見ている。

「……宗主、兵力の増強をお願いいたします。"あそこ"に居る連中相手に強制執行を行うには、今の手勢では……」


 きゃあ、と驚く美女の声。それは怯えではなく、"面白いもの"を指す好奇の声。男の目の前には、頭からひしゃげた肉の人形らしきものがあった。無論、その周りには赤黒い『何か』が散らばっている。

「汚れてしまいましたね。誰か、掃除を」

 その体には一切の無駄がなく、数々の傷跡が歩んできた道を物語っている。そしてその右手には、赤黒く汚れた、かつて美しき輝きをたたえていたであろう戦槌が握られていた。事も無げにそれを彼は取り回し。玉座に立てかけた。

「神井サマ、きちゃないのついてますの。わたし、ふきますの」

 智、というものを捨て去ったような言葉を、まるで盛りのついたメス猫のように甘えた声で女の一人は放った。舞っていた美女たちは、思い思いに『壊れた人形』を処理している。まるで、酔っ払いの吐瀉物を始末するかのように。

 女は洗いざらしのタオルで男の体を拭こうとした。その時。


 部屋中に響く、音。


 平手打ちだった。

 男は、女の顔面を躊躇一つせず張り飛ばしたのだ。

 そして、声色一つ変えず、男は言い放つ。

「誰が、道具を使えと、言いましたか?」

 女は笑って、そっと神井の懐へ潜り込んだ。

 折れた鼻など気にせずに。



 へし折れた右腕と、肘から先を斬り飛ばされた左腕と。歩き喋ること以外全てを否定されたかのような有様で、伝令は謁見室へとたどり着いた。扉が開け放たれていた事は幸運だったろう…扉を開けることすら出来ぬ彼には。

「何事ですか。私は騒がしいのと無能は嫌いなのですが」

 伝令は、必死で声を絞り出し、目の前の暴君に向け言葉を吐き出した。

「……エノシマ・エリアに"左利き"が合流しました。奴との交戦により、エノシマ・エリアの教化部隊は全滅。貯蔵していた食料及び水、燃料を奪取されています。宗主、如何されますか」

 少しだけ驚いた表情を神井は浮かべるが、すぐにその顔は微笑みに変わった。まるで、新しい玩具を見つけたかのような純粋な笑顔に。

「"赤錆"と接触した、という解釈でよろしいですね?」

「"赤錆"と"左利き"ですよ!?対能力者装備があるとはいえ、我々だけではどうにもなりません宗主!」

 血を吐くような……いや、血そのものを吐くようにして伝令は叫んだ。

「俺たちはこのクソッタレな世界で救われると思ってこの場所に来たんだッ!結局一緒じゃねえか!なあ!いつ死ぬかの違いしか俺たちには与えてくれねえじゃないかよッ!もういい、殺せよ!なあ!」

 神井は静かに首を横に振り、悲しげな、そして優しい微笑を向け、言った。

「ご苦労様でした。あなたは、彼らと接触しなお生き延びて私に状況を伝えてきた。十分な成果ですよ」

 一瞬戸惑う伝令。言葉は続く。

「あなたは十分に働いてくれた。どうでしょう、少し休んではみませんか」

 両肩に手を置き、神井は微笑んだ。伝令は怯えている。何故か。

「大丈夫。『あなたの明日は希望に満ちています』」

 逃れえぬ死を目の前にして、激情によらぬ覚悟を出来る者は多くはない。

「さあ、逝きなさい。あなたの未来に光がありますように」


 神井の半身を、赤黒いまだらが染み付いた銀の装甲が包み込む。

 伝令は断末魔をあげる間もなく、真っ二つに裂かれて死んだ。

「誰か車を出してください。エノシマ・エリアヘ向かいます」

 女たちはいつものように部屋の掃除をしている。

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