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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【20XX年 封鎖特区 鎌倉】

始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。

―エノシマ・エリア

「壮揚兵馬(ちょあんやんぴんまぁ)!!」

歓喜の手斧が雲霞を砕き、

「壮揚兵馬(ちょあんやんぴんまぁ)!!」

歓呼のモーゼルがけたたましく明日の到来を告げる。

「壮・揚・兵・馬(ちょあん・やん・ぴん・まぁ)!!」

兵馬を壮揚せよ。
冗談のように大時代な声を挙げながら、衆寡ともせず敵を斬り割る。
黒い影が閃くたびに、兵は倒れ人海は亀裂が走るのを止められもしない。

そうだ。俺のクンフーは今この時のために、この突撃の為にあったのだ。
そう思うと、涙が溢れて止まらなかった。
歓喜の涙、哀惜の涙。逝った友を想い、散った友を想う。


……銀誓館学園の能力者たちは、確かに世界を救った。
だが、それは彼らをして自らを最も忌むべき大理不尽への変貌を遂げさせる物だった。
「これではまるでヤクザの所業だ」
と言ったのは、誰だったか。全く言い得て妙だと思う。
本職の自分が(一応これでもヤクザだったのだ。義理も人情の無いクチの)呆れる程の暴君ぶりであった。
(結局は大人の方が上手で、彼らの大部分は「特区」に押し込められてしまうのだが…)

俺は、この暴走が始まった時点で香港から見捨てられた。
元よりマフィアとしては半端者で、来日の目的も日本のヤクザに対する人質同然だった身である。
何より是非もなく、日本に留まるべき理由があったのだ。

…守るべき人が居た。そして、その人が成さねばならない事があった。
だが、その人は未だ幼く、それなのにその身に降り注ぐ災厄は尋常では無かった…


「龍撃砲(バスタァァァ…ビイィィィ―――ム)ッッッッ!!!」
戦場を一本の極太ビームが駆け抜ける。吹っ飛ぶ悪党。辺りを覆う砂煙。

「哎呀(あいや)!!」

「そこまでだ、悪党ども。そこまでだ」
大地に響く、全ての母の母であるかのような凛とした声。


ああ、そうなのだ。あれこそは……あれこそが、俺の守るべき人。いや、「だった」人。
もはや彼女は何者の庇護をも必要とせず、彼女の道を遮るものは何も無い。あってはならない。

「そこまでだ。鎌倉を覆う今日の悲しみたちよ。
明日が来た」
風にはためく黄色いジャンパー。
強化された白ぶち眼鏡。


あの時より、少し背が伸びて少し髪も伸びている。

ああ、そうなのだ。あれこそは……あれこそが、俺がたとうべき人。我が文殊菩薩(マンジュシュリー)!
もはや彼女の道を遮るものは何も無く、彼女の瞳に迷いは無い。あるはずが無い。

「貴方たちの悲しみにわたしは同情する。
わたしもまた、そうだったから」
義憤に燃える赤い布槍。
高速回転する動力炉。

「だが、天を見上げれば明日が来るんだ。
わたしは姉から世界の美しさを教わった。
わたしは姉がうそぶいた明日を見てみたい。

…。だからそこまでだ」


ああ、そうなのだ。あれこそは……あれこそが……

大地を足で踏み鳴らす。
仁王立ちし、腕を組む。

俺の生きがい。
俺のすべて。
消えかけた傷を搔き毟るほどに愚かしい激情は、愛であり恋である。
しかしてこれは劣情にあらず。なんとなれば彼女は廉恥を是とする乙女であり、告げた事も無い。
そうだ、一方的だ。何と一方的なのだ。だが、これは本物だ。
「張先生(しぇんしょん)、お願いします」そう言われれば何だってやる。やれる!

そう。あれこそが俺の、俺と言う影を形作る青い太陽!!

絢爛たる青の偶像(イドラ・ゴージャスブルー)!!

「今日よ死ね。明日が来たぞ」



「今日よ祈れ。昨日が去るぞ」

彼女の口上を滑らかたるために、押し寄せる有象無象を切り裂きながら俺はひとりごちた。
その名乗りを邪魔せずに、あくまでも静かに…である。
そうだ。俺は影。彼女と言う輝かしい正義に寄り添う、闇殺の亡霊(ゲスペンスト)。
同じ舞台には立たない、立てない。しかしてその舞台をまったき物とするために。
この身は全て、そのために。なんとなればそう、

『我が身は韃靼。剽悍なのが、身上デスヨ!!』


遥か昔、祖先が幼き順治帝を抱いて大清帝国を築いたように。
遠い昔、曾祖父が「白虎」張作霖総覧把(づぉらんぱ)に従い北京を臨んだように。

その日俺は、長城を越えた。
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超☆自己満足的ワード解説~最初から脚注入れとけば良かった~
1.壮揚兵馬
「祝健康弟兄(チュー・ジェンカン・テイション)」
「壮揚兵馬(チョアン・ヤン・ピン・マァ)」

『兄弟の健康を祝す、兵馬を壮揚せよ』
馬賊の仁義切り・ときの声と言ったようなもの。前半部分を略した「壮揚兵馬」で多用されます。
抱拳(パオチュエン)の礼と共に、これを一発バシッと決めるのが最高にカッコいい切り方です。
片膝を地面に付いて行う事により、目上の者への最敬礼ともなります。便利。

抱拳礼が分からない人は、ぐぐるかきうい神に聞くかして下さい。

2.文殊菩薩(マンジュシュリー)
三人寄れば何とやら、の文殊菩薩です。

中国東北地方に勃興した、長城の外の民・女真(ジュルチン)民族の信仰の対象でした。
「女真」は彼らの民族名に対する漢字の当て字であり、「服属する者」と言ったような蔑称的ニュアンスが含まれていた為、17世紀に明からの独立を宣言すると同時に、自らを信仰の対象にちなんで「満洲(マンジュ)」であると改名したのです。

ルンルンは曽祖父より「自分たちの一族はその末裔である」と言う与太話を聞かされて育ったため、
自分の中でもっとも崇高かつ派手で唯一たる者・イドラへの形容としてこれを叫びました。
これ自体はサンスクリット語の発音に基づく仏教用語ですが、別に熱心な仏教徒とかでは無いです。

3.「我が身は韃靼~」
韃靼(だったん)。
特定の民族名ではなく、中華文明から見て長城の外に跋扈する異民族への漠然とした古称です。
ルンルンは曽祖父の昔話を正直マユツバに思っていますが、悪い気はしないのでこの名乗りが出ました。
韃靼そばとかタルタルソースが大好きなだ、と表明している訳ではありません。

4.順治帝
清の3代皇帝。
清の皇帝として初めて長城を越え、北京に入城したため、実質的な初代皇帝と見る向きもあります。

つまり、ルンルンの曽祖父は
『自分たちの先祖はこの帝と共に長城を越えたんだよ』的な昔話をしていたのですね。
「それから、お話どうなったの?」
「もう昔の話だから、忘れちまったのぉふぉっふぉっ」
「えー、そんなのずるいよー☆(所詮はボケたじじいの与太話か…)」
みたいな。

5.「白虎」張作霖総覧把(づぉらんぱ)
「パイフー」チャン・ヅォ・リン。
北洋軍閥の雄、泣く子も黙る東北王(トンペイワン)、張作霖。馬賊の大親分でした。
関東軍の陰謀により、乗っていたお召し列車ごと爆破されるという世界史上稀に見る豪気な死に方をした人として有名です。
覧把(ランパ)とは日本語で言う「親分」位の意味であり、総覧把は「大親分」と言った所だそうです。

つまり、ルンルンの曽祖父はこの人に従って馬賊をやってた訳ですね。
これは本当のことでしょうが、たいがい下っ端の三下チンピラだったと思われます。
田吾作 2007/08/31(Fri)18:50:53 編集
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