あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】 汝 祈ることなかれ
【20XX年 封鎖特区 鎌倉】
その中でも更に地の枯れた荒野のただ中に、その教会はある。
周辺にささやかな畑を持ち、牧畜を飼って自給自足の生活を営む家。
煉獄と化した鎌倉の中、どう考えても悪目立ちするその建造物が、未だ跳梁跋扈する世迷い共の毒牙にかかっていてないのは、正に奇跡と言える。
否、奇跡とは、起きないからこそ奇跡なのだ。
* * * * *
「神父様!もう我慢の限界です!!」
そう叫んだのは、如何にも血気盛んそうな少年だった。
場所は教会の最奥、主である神父の部屋。質素そのものの内装、明らかに最低限以下にしか成されていない補修。この教会に寄り添う孤児達の部屋の過ごし易さ比べれば、此処の住人の尊敬が一体誰に集まっていようか、想像に難くない。
しかしその上で、それでも不満は溜まって行き、こうして直談判に来た“子供達”は、実に10名近くに上っていた。
彼らの要求はだだ一つ。
『皆でこの荒野を出、町に下りたい』
「そうは言うけどねミツヤ……未だ、この教会には小さな子が沢山いるじゃないか。アキちゃんマモリ、マコト、スティーブにコタにイッキ、それからイシは未だ7つだ。まあ、マコトとアキちゃんは今月の17日と21日に8つになるけど……」
スラスラと淀みなく反論を並べ立てる神父は……有体に言って随分とノンビリした態度だった。
ホンワカと言うか、ニコヤカと言うか、それで良くこの鎌倉を生き抜いてこれたなと、10人中10人が言いそうな……そんな風情である。そして今日に限らず、この教会の神父の態度は常に“こう”なのだ。
「年の若い子の世話は、僕達年長の者が見ます!それにアイツらだって此処で育って来たんだ、町でヌクヌク育って来た大人達なんかよりもよっぽどシッカリしてるさ!」
「うーん……まあそうかもね。そう言えば聞いたかい?マモリちゃん、もう九九の暗誦を全部完璧にこなせる様になっ
「話をそらさないで下さい!」
「……はーい…」
神父はちょっと涙目でションボリした。
「兎も角!僕らの我慢は限界です!こうなった神父様が止めても僕らだけで……
ピリリリリリリリリリ
「あ、ゴメーン。電話だよちょっとだけ待ってね」
「………」
正に渡りに船、とばかりに飛び跳ねるように部屋を出て行った神父を見送り、少年達はギリリと、奥歯を鳴らした。
* * * * *
「良いから神父を呼んで来いっつってんだよガキ共!」
「頭のトロイ餓鬼にゃ、オシオキが必要かぁ?ああ!?」
その男達は、物々しい居住まいをしていた。
西洋甲冑と近未来的なプロテクターを混ぜたようなデザインの防具、幾重にも線の張られた黒塗りの剣。
『対能力者鎮圧部隊』
それが“宗主”の名の下、彼らに与えられた名であり、鎌倉内に隠れる“能力者、ないし能力者の才質を持つもの”を狩り出す事が、彼らに課せられた任務であった。
……もっとも、彼らの中でも質の悪いものには、少しでも能力者の疑いの噂のあるものを恣意的に嫌疑にかけ、その財産を奪い、或いはただ踏み躙り嬲り殺しにして悦に入る類も多い。
文字通りの世迷い共である。
「良・い・かぁ?この教会にはな、秘密裏に能力者の孤児を匿ってるって噂があるんだ!」
「隠したって無駄だぜぇ、鎌倉の事で“宗主”様に、そんでその“宗主”様に認められた俺達に隠せる事なんて一つもねえんだからな!」
「嘘を吐けばタップリ拷問にかけてやるからな!正直に言えば……楽に殺してヤルよ!ヒヒヒフヒ!」
「オイオイ、待てよ。メスガキは残して置けよ。普段頑張って働いてる分、偶には役得がねえとやってらんねーだろーが」
「ちげーねえ、ギャハ、ギャハハハハハハ!!」
「………コタちゃん…」
「……」
下卑た笑いが響き渡る中、寄り添うようにして男達を見上げているのは、年端も行かない少年少女である。中でも比較的大人びた顔立ちの、コタと呼ばれた少年が、二人の少女を抱くようにしている。
「クックック、頑張るねえナイト君。泣きそうなのを必死でガマンしてんのか?エライねえぇぇぇ」
「ヘヘヘ、両手に花だなあ、男冥利に尽きるだろ?羨ましいねえ!!ヒャハハハ─
「煩い」
ギョっとした様に男達の笑いが止まる。響いたのは幼い少女の声。
見れば、先ほどまで少年に抱きすくめられていた少女のうち、声も出さず、顔を背け続けていたはずの少女が、男達をまっすぐに睨んでいる。
そんな少女の様子に、少年は「あーあ」と言う顔で、軽く空を仰いでいた。
「“ソウシュ”って知ってるよ。悪い人で、可哀想な人。そんな“ソウシュ”におんぶでだっこのあなた達はどうしようもない人。フン!“ソウシュ”なんて今に神父様がヤッツケちゃうんだから。その時になってから泣けば良いんだわ」
間が、開いた。余りの事に男達は数秒間、呆けてしまったのだ。
だが、呆然は直ぐにでも激怒に変わる。
「テメエクソガキ!打ち殺してヤルァ!!」
即座に先頭に立って居た男が、迷わずその剣を少女に向けて振り抜いた。
内蔵された逆回転動力炉と調整式R歪曲残留思念の流動により、能力者の力を吸収し、その動力で人知を超えた大威力を弾き出す剣、“エクスカリパー 02bb”。とある研究所にて考案されたその兵器の威力は凄まじく、途中で腕ごと明後日の方向に飛んだにも拘らず、命中した壁の一角を粉々にして退けた。
腕ごと、
明後日の方向に飛び、
壁に。
2秒ほど経って。
男はようやく、一瞬先まで少女を粉微塵にする筈だった己の腕が、半ばからちょん切れて居る事に気づいた。
「ああ、あああああああ!?何だこりゃあああ!?」
「て、てめえガキ、まさか本当に能力者か!」
気がつけば、先ほど悪態を吐いた少女は何時の間にか、自分の頭二つ分ほどのサイズの刀身を持つ手斧を無造作に下げている。そしてもう一人の少女に至っては、今まさに十字軍を髣髴とさせる重々しい甲冑が、其の身に纏い絡み付いて行く最中であった。
「ひょ、瓢箪からコマとはこの事だぁ!オイ怯むな!こいつら打ち殺せば褒美は思うがままだぜ」
「そ、そうだ!バカめ、しょせんガキだな、いくらバケモノっつったってな、たった三人でB型対能力者装備の兵士12人に勝てるわけが……
その男は、まあ、この場にいた12人の中でも比較的頭の回る方だったのだろう。一人だけ疑念に気づき、言葉と足を止めた。
B型対能力者装備。“エクスカリパー02bb”と同じく彼らの纏う防具もまた、能力者と相対するのに特化した兵器なのだ。ソレに包まれた腕を、あのタッパの子供がアッサリと両断した、だと……?
『この装備は基本的に能力者に対しては無敵だ。ただし、装備の“キャパシティ”を相手の“力”が超えれば話は全く別。もっとも、それだけの実力の奴なんて、この鎌倉にだってそーそー居ないがな』
装備の開発者である研究者の言葉が脳裏に蘇える。
そしてその前で。少女の斧が仲間の正中線を綺麗に両断した。勿論鎧毎。
先程まで下卑た雑言を吐いていた同僚の首が中を舞う。
辛うじて剣を突き立てた男は……己の剣が少女の甲冑に傷一つ付けていない事に気づき、絶望の悲鳴を上げた。
男はようやく、自分達が致命的な失敗を犯した事に気づく。
「ほ、本部にれ、連絡を…!!」
転げるように惨劇の場から逃げながら、震える手で無線機を取り出し…
「本部!応答を!!助けてくれ!タスケ ──キョひゅ──」
「まったく……アキもイシもなんで神父様の言いつけを守れないんだよ。後でいっしょに怒られて上げるから、そん時はイイワケはナシだからね?」
針の様な細身のクナイで喉を刺し貫かれ、絶命した男の方を見もせずに。
先程より誰の視界にも入らなくなっていた少年は、諦めたようにそう言い、
モノのついでとばかりに鋼糸を引いて、又一人の命を奪った。
周辺にささやかな畑を持ち、牧畜を飼って自給自足の生活を営む家。
煉獄と化した鎌倉の中、どう考えても悪目立ちするその建造物が、未だ跳梁跋扈する世迷い共の毒牙にかかっていてないのは、正に奇跡と言える。
否、奇跡とは、起きないからこそ奇跡なのだ。
だからコレは、奇跡なんかじゃない。
* * * * *
電話の相手が誰だったのかは分からない。
何れにせよ戻ってきた神父の態度は何時も通りのノンビリとした物だった。
だが、しかし、たった一言。一変してこう言った。
「さあ、出かけるよ皆。町に征こう」
総人数54名がズラリと並ぶ。
第二夕陽丘教会、。其の名に真っ向反して平地に佇む教会の前に。
「これから皆で町に行こう」
神父は何時もの通りのノホホンとした態度で演説を始める。
「辛い事がある。悲しい事がある。酷い事がある。耐えられない事もある」
“日の下の灯”。
そう、パッとしない言動を名と交え、かつて囃し立てられた男は語る。
「それらは全て僕のせいだ。君達の苦難の全て。君達の罪科の全て。後ついでにコレから君達に殺される人の恨み。それらは全て僕のものだ。身勝手で結構、ヒトカケラだってあげる気は無いよ。全部僕が貰う」
日の下のともし火は、陽光に紛れて薄れ、良く見えない。
「それから、僕は祈らない。絶対に祈らない。“祈り”は神に願う行為だ。“神は自らを助く者を助く”。この苦境が試練なのか罰なのか、人の身の僕には計れ ない。だけど、どちらにしてもやる事は一緒だ。“より良きを目指し、自分の全てを掛けて其処に歩む。力足らず倒れるその時まで”」
だが、紛れようとも、薄れようとも、見えなかろうとも、
「祈るのはそれからだ。祈るのは出来る事を全てやり切ってからだ。祈るのは死んでからで良い」
ともし火は、確かにそこで燃えているのだ。
「それじゃあ、征こうか皆。僕らの町へ」
後に“ノンプレイヤー”、“祈らず”と謡われる伝説がある。
ソレは物語の題であり、
一種の都市伝説であり、
一個人の二つ名であり、
突如としてエノシマ・エリアに現れた。
“宗主”に相対する敵対勢力の名である。
その中でも更に地の枯れた荒野のただ中に、その教会はある。
周辺にささやかな畑を持ち、牧畜を飼って自給自足の生活を営む家。
煉獄と化した鎌倉の中、どう考えても悪目立ちするその建造物が、未だ跳梁跋扈する世迷い共の毒牙にかかっていてないのは、正に奇跡と言える。
否、奇跡とは、起きないからこそ奇跡なのだ。
* * * * *
「神父様!もう我慢の限界です!!」
そう叫んだのは、如何にも血気盛んそうな少年だった。
場所は教会の最奥、主である神父の部屋。質素そのものの内装、明らかに最低限以下にしか成されていない補修。この教会に寄り添う孤児達の部屋の過ごし易さ比べれば、此処の住人の尊敬が一体誰に集まっていようか、想像に難くない。
しかしその上で、それでも不満は溜まって行き、こうして直談判に来た“子供達”は、実に10名近くに上っていた。
彼らの要求はだだ一つ。
『皆でこの荒野を出、町に下りたい』
「そうは言うけどねミツヤ……未だ、この教会には小さな子が沢山いるじゃないか。アキちゃんマモリ、マコト、スティーブにコタにイッキ、それからイシは未だ7つだ。まあ、マコトとアキちゃんは今月の17日と21日に8つになるけど……」
スラスラと淀みなく反論を並べ立てる神父は……有体に言って随分とノンビリした態度だった。
ホンワカと言うか、ニコヤカと言うか、それで良くこの鎌倉を生き抜いてこれたなと、10人中10人が言いそうな……そんな風情である。そして今日に限らず、この教会の神父の態度は常に“こう”なのだ。
「年の若い子の世話は、僕達年長の者が見ます!それにアイツらだって此処で育って来たんだ、町でヌクヌク育って来た大人達なんかよりもよっぽどシッカリしてるさ!」
「うーん……まあそうかもね。そう言えば聞いたかい?マモリちゃん、もう九九の暗誦を全部完璧にこなせる様になっ
「話をそらさないで下さい!」
「……はーい…」
神父はちょっと涙目でションボリした。
「兎も角!僕らの我慢は限界です!こうなった神父様が止めても僕らだけで……
ピリリリリリリリリリ
「あ、ゴメーン。電話だよちょっとだけ待ってね」
「………」
正に渡りに船、とばかりに飛び跳ねるように部屋を出て行った神父を見送り、少年達はギリリと、奥歯を鳴らした。
* * * * *
「良いから神父を呼んで来いっつってんだよガキ共!」
「頭のトロイ餓鬼にゃ、オシオキが必要かぁ?ああ!?」
その男達は、物々しい居住まいをしていた。
西洋甲冑と近未来的なプロテクターを混ぜたようなデザインの防具、幾重にも線の張られた黒塗りの剣。
『対能力者鎮圧部隊』
それが“宗主”の名の下、彼らに与えられた名であり、鎌倉内に隠れる“能力者、ないし能力者の才質を持つもの”を狩り出す事が、彼らに課せられた任務であった。
……もっとも、彼らの中でも質の悪いものには、少しでも能力者の疑いの噂のあるものを恣意的に嫌疑にかけ、その財産を奪い、或いはただ踏み躙り嬲り殺しにして悦に入る類も多い。
文字通りの世迷い共である。
「良・い・かぁ?この教会にはな、秘密裏に能力者の孤児を匿ってるって噂があるんだ!」
「隠したって無駄だぜぇ、鎌倉の事で“宗主”様に、そんでその“宗主”様に認められた俺達に隠せる事なんて一つもねえんだからな!」
「嘘を吐けばタップリ拷問にかけてやるからな!正直に言えば……楽に殺してヤルよ!ヒヒヒフヒ!」
「オイオイ、待てよ。メスガキは残して置けよ。普段頑張って働いてる分、偶には役得がねえとやってらんねーだろーが」
「ちげーねえ、ギャハ、ギャハハハハハハ!!」
「………コタちゃん…」
「……」
下卑た笑いが響き渡る中、寄り添うようにして男達を見上げているのは、年端も行かない少年少女である。中でも比較的大人びた顔立ちの、コタと呼ばれた少年が、二人の少女を抱くようにしている。
「クックック、頑張るねえナイト君。泣きそうなのを必死でガマンしてんのか?エライねえぇぇぇ」
「ヘヘヘ、両手に花だなあ、男冥利に尽きるだろ?羨ましいねえ!!ヒャハハハ─
「煩い」
ギョっとした様に男達の笑いが止まる。響いたのは幼い少女の声。
見れば、先ほどまで少年に抱きすくめられていた少女のうち、声も出さず、顔を背け続けていたはずの少女が、男達をまっすぐに睨んでいる。
そんな少女の様子に、少年は「あーあ」と言う顔で、軽く空を仰いでいた。
「“ソウシュ”って知ってるよ。悪い人で、可哀想な人。そんな“ソウシュ”におんぶでだっこのあなた達はどうしようもない人。フン!“ソウシュ”なんて今に神父様がヤッツケちゃうんだから。その時になってから泣けば良いんだわ」
間が、開いた。余りの事に男達は数秒間、呆けてしまったのだ。
だが、呆然は直ぐにでも激怒に変わる。
「テメエクソガキ!打ち殺してヤルァ!!」
即座に先頭に立って居た男が、迷わずその剣を少女に向けて振り抜いた。
内蔵された逆回転動力炉と調整式R歪曲残留思念の流動により、能力者の力を吸収し、その動力で人知を超えた大威力を弾き出す剣、“エクスカリパー 02bb”。とある研究所にて考案されたその兵器の威力は凄まじく、途中で腕ごと明後日の方向に飛んだにも拘らず、命中した壁の一角を粉々にして退けた。
腕ごと、
明後日の方向に飛び、
壁に。
2秒ほど経って。
男はようやく、一瞬先まで少女を粉微塵にする筈だった己の腕が、半ばからちょん切れて居る事に気づいた。
「ああ、あああああああ!?何だこりゃあああ!?」
「て、てめえガキ、まさか本当に能力者か!」
気がつけば、先ほど悪態を吐いた少女は何時の間にか、自分の頭二つ分ほどのサイズの刀身を持つ手斧を無造作に下げている。そしてもう一人の少女に至っては、今まさに十字軍を髣髴とさせる重々しい甲冑が、其の身に纏い絡み付いて行く最中であった。
「ひょ、瓢箪からコマとはこの事だぁ!オイ怯むな!こいつら打ち殺せば褒美は思うがままだぜ」
「そ、そうだ!バカめ、しょせんガキだな、いくらバケモノっつったってな、たった三人でB型対能力者装備の兵士12人に勝てるわけが……
その男は、まあ、この場にいた12人の中でも比較的頭の回る方だったのだろう。一人だけ疑念に気づき、言葉と足を止めた。
B型対能力者装備。“エクスカリパー02bb”と同じく彼らの纏う防具もまた、能力者と相対するのに特化した兵器なのだ。ソレに包まれた腕を、あのタッパの子供がアッサリと両断した、だと……?
『この装備は基本的に能力者に対しては無敵だ。ただし、装備の“キャパシティ”を相手の“力”が超えれば話は全く別。もっとも、それだけの実力の奴なんて、この鎌倉にだってそーそー居ないがな』
装備の開発者である研究者の言葉が脳裏に蘇える。
そしてその前で。少女の斧が仲間の正中線を綺麗に両断した。勿論鎧毎。
先程まで下卑た雑言を吐いていた同僚の首が中を舞う。
辛うじて剣を突き立てた男は……己の剣が少女の甲冑に傷一つ付けていない事に気づき、絶望の悲鳴を上げた。
男はようやく、自分達が致命的な失敗を犯した事に気づく。
「ほ、本部にれ、連絡を…!!」
転げるように惨劇の場から逃げながら、震える手で無線機を取り出し…
「本部!応答を!!助けてくれ!タスケ ──キョひゅ──」
「まったく……アキもイシもなんで神父様の言いつけを守れないんだよ。後でいっしょに怒られて上げるから、そん時はイイワケはナシだからね?」
針の様な細身のクナイで喉を刺し貫かれ、絶命した男の方を見もせずに。
先程より誰の視界にも入らなくなっていた少年は、諦めたようにそう言い、
モノのついでとばかりに鋼糸を引いて、又一人の命を奪った。
周辺にささやかな畑を持ち、牧畜を飼って自給自足の生活を営む家。
煉獄と化した鎌倉の中、どう考えても悪目立ちするその建造物が、未だ跳梁跋扈する世迷い共の毒牙にかかっていてないのは、正に奇跡と言える。
否、奇跡とは、起きないからこそ奇跡なのだ。
だからコレは、奇跡なんかじゃない。
* * * * *
電話の相手が誰だったのかは分からない。
何れにせよ戻ってきた神父の態度は何時も通りのノンビリとした物だった。
だが、しかし、たった一言。一変してこう言った。
「さあ、出かけるよ皆。町に征こう」
総人数54名がズラリと並ぶ。
第二夕陽丘教会、。其の名に真っ向反して平地に佇む教会の前に。
「これから皆で町に行こう」
神父は何時もの通りのノホホンとした態度で演説を始める。
「辛い事がある。悲しい事がある。酷い事がある。耐えられない事もある」
“日の下の灯”。
そう、パッとしない言動を名と交え、かつて囃し立てられた男は語る。
「それらは全て僕のせいだ。君達の苦難の全て。君達の罪科の全て。後ついでにコレから君達に殺される人の恨み。それらは全て僕のものだ。身勝手で結構、ヒトカケラだってあげる気は無いよ。全部僕が貰う」
日の下のともし火は、陽光に紛れて薄れ、良く見えない。
「それから、僕は祈らない。絶対に祈らない。“祈り”は神に願う行為だ。“神は自らを助く者を助く”。この苦境が試練なのか罰なのか、人の身の僕には計れ ない。だけど、どちらにしてもやる事は一緒だ。“より良きを目指し、自分の全てを掛けて其処に歩む。力足らず倒れるその時まで”」
だが、紛れようとも、薄れようとも、見えなかろうとも、
「祈るのはそれからだ。祈るのは出来る事を全てやり切ってからだ。祈るのは死んでからで良い」
ともし火は、確かにそこで燃えているのだ。
「それじゃあ、征こうか皆。僕らの町へ」
後に“ノンプレイヤー”、“祈らず”と謡われる伝説がある。
ソレは物語の題であり、
一種の都市伝説であり、
一個人の二つ名であり、
突如としてエノシマ・エリアに現れた。
“宗主”に相対する敵対勢力の名である。
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