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あってはならない、否定できない可能性――最悪の終末。
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【IF Another despair】 偽善の進行

 街田・良の周りには、『レギオン』から分離した大量の地縛霊が押し寄せ群れ集っていた。
 一体や二体なら物の数ではないが、雑霊が地の果てまで染め上げる景色には、流石に。
 
 「ち……。」
 
 つい舌打ちをもらしてしまう。
 口の中の血の味に気づく。思ったより攻撃を食らっていたらしい。
 どう凌ぎきるか、幾度目かの思案を巡らしたそのとき、絶叫が耳に届いた。
 
 「街田先ぱーーーーーーーーーーーい!!!!」
 
 振り向いた街田の横を男性型の地縛霊が吹き飛んで行った。
 
 「丘君!遅いよ!」
 
 目線の先にいたのは丘・敬次郎。左右に結った髪の右の房から、何かを取り出しながら走りこんでくる。
 
 「今懐かしの!煙玉!」
 「ちょ!」
 
 街田が反応する暇もあればこそ、火花を散らす玉が彼の足元に叩きつけられた。爆音と共に灰色の煙が一瞬で辺りを包み込む。
 
 「げっほげほっ!」
 「こっちですこっち!」
 
 丘が街田の袖を引く。街田は転びそうになりながらも、何とか煙幕を脱した。
 
 「げっほ……。うわ、きっつ。」
 
 煙幕を超えても、まだその先には霊の群れ。二人に気づいたらしい霊たちが首をこちらに向ける。
 
 「七里ガ浜まで抜ければ集落があります。そこまで走れますか?」
 「正直息切れしそうだけど……。やるっきゃないか。」
 「忍!法ーーーーー!」
 
 手近なゴーストに丘が飛び込む。ツーテールの今度は左側から手榴弾を抜き出して相手の懐にねじ込むと、水を纏わせた両手を叩き込んだ。
 
 「爆(バオ)!」
 
 気迫と共にゴーストの体が飛んでいく。そして、炸裂。
 
 「先輩!」
 「『消えてなくなれ!』」
 
 気合の声に乗って、白く輝く蟲たちが、爆風でこじ開けられた空隙を食い荒らす。煙とうめき声の止まない空間へと、男二人は駆け込んで行った。
 
 
――――
 
 「……何とかなりましたね。はぁ。」
 「……やれやれ……アビリティギリギリだよ。ちょっと休まないとな。」
 
 浜辺の石垣に、丘と街田は腰を下ろした。
 
 「鳩様は。はぐれちゃったんですか?」
 「……。」
 
 丘の問いに、街田は顔を曇らせる。
 うつむいたまま、徐に着物の中から杖を取り出して丘に差し出した。
 
 「……そうですか。死んじゃいましたか。」
 
 それは小鳩の持っていた仕込み杖。詠唱兵器ではなく、回転動力炉はついていない。本当に、ただの日本刀を仕込んだ杖。
 丘は、悲しい、というよりは残念そうな声で、それを受け取った。
 
 「すまない。」
 「いや、しょうがないです。あの爆発は予定外だった。
  これは残留思念?」
 「違う。小鳩さんは……銀になってた。信じられないけどね。形を残していたのがそれだけで。
  思念は残していなかったよ。」
 「そうですか♪
  なら、よかった。」
 
 丘は、きん、と仕込みの刀を僅かに抜く。
 
 「よかった?」
 「ええ。思い残すことなく亡くなったのです。
  過程はどうあれ、それは僕等の求める最高のこと。」
 「……助けられたんだ。あの人に。
  生命賛歌の力で。
  だから、多分自分の命を支えているメガリスを使ったんだと思う。」
 「どうか気に病まないでくださいね。
  大頭目が本当に生き残ろうとしていたなら、先輩を助けてなどいない。
  先輩を大頭目が命と引き換えに助けたなら、それは大頭目の意思なんです。
  『死にたいと思って死んだ』。思念も残さず悔いも無く。
  それなら、僕も大頭目も何の文句も無い。」
 「ん……。」
 「本当に助けたいと思ったからそうしたんです、だから……。
  ……気に病むなって方が無理ですか。」
 「まあ、ねぇ。流石に。」
 
 街田は肩を竦める。
 
 「で、これからどうするの。」
 「エノシマ酷いことになっちゃいましたからねえ……。
  政府軍も今はもう様子見になってますし、状況は落ち着いてしまった。」
 「落ち着いた!?」
 「あーーー、落ち着いてはいませんがー♪」
 
 霊が染め上げる地平線を街田が指差すと、丘は苦く笑った。
 立ち上がり、仕込み杖を抜いて取り回す。
 
 「あれで大分予定が狂っちゃったなあ……。
  まとまってた勢力が全部リセットされちゃったんでねぇ。」
 「勢力。」
 「僕等以外にも、同じタイミングで結構動いてたんですよ。軍だけじゃなくて。
  ちょうどあの爆心辺りに、『宗主』がいたとか。」
 「丘君、君は……何故そんなことを知ってる。」
 
 爆発が起こる瞬間、君は僕より爆心から遠かったはずなのに。
 
 「忍者ですから♪」
 
 歯をむき出してぎちっと笑う。その笑顔に街田は薄ら寒いものを感じ、眉を微かに顰めた。
 それを見て取ったのか、丘は言葉を続ける。
 
 「まあ、一応現代のスパイですので。
  カタギの人よりは情報が入ってくるのです。無論、情報の出所については企業秘密ですが。」
 「企業秘密か。」
 「企業秘密♪」
 
 クスクス。
 悪戯っぽい丘の笑顔。
 
 「じゃあですねえ……義賊でも気取ってみますか♪」
 
 わざとらしく大仰に仕込み杖を仕舞ってみせる。
 
 「悪漢罪人共を、懲罰して回りましょう♪
  力で押し通すばかりの能力者を仕置き、
  弱き市民に財産分配。
  もとより、その為に来たのですからね。教団は分かりやすい悪役ってだけで。」
 「まるで『廃屋』みたいだな。」
 
 鎌倉に現存する本物の義賊集団の名を聞いて、丘は喉を鳴らして笑った。
 
 「ええ、そうなれば『素晴らしい』♪
  向こうと絡みが発生すれば、それこそ『廃屋』です♪
  紅玉の鳩の『廃屋』と、瑠璃の鳩の『廃屋』。
  ふふふふふふ……大頭目が死んでしまわれたのが、少しだけの心残りですが……。
  この機会に、是非ご挨拶はしておくべきでしょうね。」
 
――――エリア・エノシマ西の大炸裂事件の翌夜から、エリア・シチリガハマヒガシにツーテールと和服の二人組みが出没し始める。
――――彼らは自らを『掃除屋』と呼ばわり、食料目当てに七里ガ浜診療所を狙う能力者を裸に剥いて浜に晒していった。
――――『被害者』に共通するのは、全身を覆う虫食い痕と鋭い切り傷。
――――程なくして『掃除屋』はシチリガハマヒガシの自治集団と接触、彼らの仲間に加わる。
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